思わず消してしまった『夫婦善哉』
「歯グキさん、そもそもあまりテレビ好きじゃないそうですが、次回の『月9と眼鏡とリモコンと』、面白かった番組ではなく思わずテレビを消したくなった番組について書いてみてはどうでしょう」
というご依頼を編集部からいただいて、真っ先に思い浮かんだのがNHKで土曜夜9時から放映されていた『夫婦善哉』でした。
いえ、いえいえいえ! そんな、私はね、プロの方が真剣に作ってらっしゃるテレビ番組を批判しようなんて、これっぽっちも思ってやしないんです。「テレビ番組作って俺ら飯食ってんだよ!」って方々に対して、私みたいな者が言えることなんて、何もないし、言う資格もないし。
だからこれは批判とかじゃないんです。単に、苦手なかんじだったので、予告を見た段階でテレビを消してしまった、ってだけなんです。
●予告だけで既視感ばりばりの重さ
『夫婦善哉』は、大正 – 昭和の大阪で、働かない若旦那の柳吉さん(森山未來)と北新地の人気芸妓・蝶子さん(尾野真千子)が紆余曲折を経て、「ほんまもんの夫婦」になっていく姿を描いたドラマで、2013年に生誕100年を迎た織田作之助の同名小説が原作です。
予告では柳吉さんが、なにやら芸者さんたちとくんずほぐれつ遊んでいるところを、蝶子さんに「あんた、なんにやってんねん!!」などと怒られ、そこに、ナレーションが流れたんです。
「うちは、あんたを、一人前の男にしたいねん!」
これを聞いて思わず抱いた感想が、「……重っ……!!」。
こと、重さに関しては、私、精神的にも体重的にも相当なもんなんで。もうねぇ、私くらいの重さになると、これは予告編見ただけで「ああ、これは重いから見なくてもいいかなぁ」って……。
いや、いやいや!! ドラマとして、良いか悪いかで言ったら、良いドラマだと思ってますよ!? セットとか豪華だし、衣装も素敵だし、森山未來さんの色白若旦那も見れるし。ホント、ただ単に私が個人的にこういうテーマが苦手だ、ってだけなんです。
で、私、苦手なものには近づかない主義なんで、『夫婦善哉』も見てなかったんですけど、今回、このコラムを書くために、見ました。2013年9月14日に放映された最終回を。
●実際に見て、やっぱりデジャヴ
最終回を見たうえで、ストーリーを私なりにまとめると、このドラマは、「働かないうえにいろいろ残念なダンナに対して『私がこの人を変えてみせる!私の愛で!』って奥さんが思う」というお話でした。
もうこれ、ひっじょ~~うに、私にとってはデジャヴなストーリーなんですよ。既視感ばりばりなの。こういう関係性に巻き込まれた思い出したくもないビターなメモリーズが鮮やかに蘇っちゃって、まいっちゃうなぁ、っていう……。
●共依存の話を聞いても……
『夫婦善哉』の蝶子さんと柳吉さんは、共依存の関係にあるカップルですよね。
共依存のカップルっていうのは、怒鳴り合ったり、シバキ(※殴るの意)合ったりするのが生きがいな人たちです。その関係から抜けだしたいなんてチットモ思ってないし、抜けだそうとも思ってない、ということを、私は、これまでの人生で学ばせていただきました。
当事者たちに現状を変える気などさらさらないし、傍観者にもどうすることもできない、というのが、共依存劇場です。
そして蝶子さんと柳吉さんの共依存っぷりや、もう、共依存の中の共依存。アツアツすぎて、灼熱。幸せ真っただ中、灼熱の恋のお花畑の中で嬉しそうに罵り合ったり、楽しそうに怒鳴り合ったりするの。
迫真の共依存に見えたということは、それだけ尾野真千子さんと森山未來さんの演技が真に迫っていて素晴らしかった、ということなのに、私にとってはそれが裏目に出てしまって、わざわざドラマで見たくない……って思ってしまった、という。
●一番知りたい過程がすっとばされていた最終回
私、共依存の男女がその状態から抜け出すところを見たことないので、もし共依存から抜け出る方法があるなら、見たいと思ったんです。これは、今でも思っています。
ドラマの終盤、一瞬、「これどうなるのかなぁ?」ってかんじになったんですよ。
まずね、柳吉さんが「ごほん!」と、咳をしたんですね。ドラマにおいては、明らかに病気のサインです。ダンナ、働かない上に、病気かよ! って思ってると、やがて柳吉さん、デーモン小暮閣下みたいに頬にシャドゥを入れたメイクになってました。おぉ、病気のうえに、とうとう死んじゃうフラグ立っちゃったよ! って、思うじゃないですか。
で、働かないし、病気だし、蝶子さんはキレるし、柳吉さんは泣いちゃうし、いつの間にか、2人は離れ離れになっちゃうの。
それぞれ別の場所で、酒に溺れる2人。布団に寝そべったまま、三味線を一音だけ、ビヨ~ンと弾き、唸るような低音で、なにやら歌う柳吉さん、タッタ一人の寂しいシーン。
さあ、どうなるのか!?
……と思ったら、唐突にラストシーン。デーモンメイクも消えた柳吉さん、蝶子さんと仲良く並んで夫婦善哉を食べてる。もう、突然、おもむろに、おいしそうな善哉食べるシーンですよ。
ソロでそれぞれ酒びたりの状態から、いきなり仲良く2人でスイーツ……!?
ええっ? 三味線はどこ、酒はどこ? 病気はどうなったの? 何かの間違い? と思いきや、蝶子さんがこう言いました。
「やっぱり、一人より、夫婦がええわぁ」
おいこら、ちょっと待て! と思ったのですが、病気もすっかり治った様子の柳吉さんと蝶子さん、仲睦まじく歩いてゆくシーンでドラマは終わり。
私は「共依存状態」と「夫婦がええわぁ」の「間」、その「間」の過程が知りたいのに。あんだけ職ナシ、病気アリ、夫婦仲険悪、の状態をあおっておいて、それをどうするか、っていう、その一番重要なところを全部すっとばすんかい!
とは思ったものの、そこが、共依存の共依存たるゆえんなのかもしれません。
「理屈やない!! 夫婦の状態のほうが幸せや、それが絶対的真理! 異論は受け付けん、以上!」と、蝶子さんが言っているのが聞こえるようです……。
●やっぱり見なくてよかった。という結論ですが批判ではありません。
ホント、重ね重ね、強調したいのは、別にドラマ自体が悪いと言いたいわけではない、ということなんです。あくまでも個人の好みの領域のことです。
そして、共依存アレルギー状態の私がこのドラマを見て「やっぱり私はこんな共依存、まっぴらだわ」と思ってしまったということは、役者さん方の演技が真に迫っており、ドラマのクオリティが高かった、という証明に他ならないのです。だから、結局今回は、いかに『夫婦善哉』が良いドラマだったかということを書いているだけ、ということになってしまいましたね。
■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。