連載

働いても働かなくても、明るい未来なんてなかった

【この記事のキーワード】

IMG_3570

生きているのが嫌だもう駄目だ死にたい、と思う。文章を書きたくない指を動かしたくない。疲れている。労働をしたわけでもないのに僕はずっと疲れてばかりいる。毎日のこの疲れは一体何なんだろう。

どうせ僕に明るい未来は待ってない。いいことのない日常を受け入れて生きていく、そんなセンスが僕にはない。泣き言しか浮かばない。誰かに話したくてたまらない。唇が錆びついてるような気がする。本当に大事な言葉を、声を通して表現するという回路が、なくなっていく。

僕はよく彷徨をする。当てもなく歩き回る、さまよう。夜を歩くのが好きだ。昼を歩くより好きだ。時間が遅くなるにつれて、道にはどんどん人の気配がなくなっていき、まるでこの世に自分しかいないみたいになるのが好きだ。人と会うより好きだ。核戦争後の世界に取り残された、たった一人の生き残りみたいだ。道というのはまるで永遠みたいに続いている。自分を見つめるより好きだ。どこかに果てはあるんだろうけど、僕は多分たどり着きはしないだろう。僕の住んでいるところから、2時間も歩けば繁華街にたどり着く。

23時を過ぎていた。服屋とか本屋とか喫茶店とかは閉まっていて、代わりに、飲み屋とキャバクラと風俗があいている。「おっぱい! さぁ、おっぱい!!」というヤケクソ気味の声が飛んでくる。つられて僕もヤケクソになってくる。悲しい気持ちになってくる。悲しい気持ちなんて誰とも共有できない。人と人とは分かり合えない。

雨が降り出す。携帯で自分の連載を検索した。雨に濡れて画面がなかなか反応しない。messy、messy、と指でしつこくなぞる。画面を、車のワイパーみたいに、何度もTシャツの裾で拭う。やっと自分の連載一覧のページにたどり着く。ページを見ながら、この一年、いろんなことがあったな、と思った。東京に呼んでもらってKENJIさんと対談したり、座禅もしたし競馬も行ったし友達の結婚式にも出てスピーチもしたし。何より、ミョンちゃんと再会したし。何せ、連載を始める前の僕の生活ときたら、本当に何もない無、虚無の状態で、それに比べればこの一年はいろいろ激動だったのだ、こんなでも、自分にしてはさ。いろいろチャンスももらった。楽しかった。でも、本気で頑張ったけど、やっぱり駄目だった。僕は失敗した。

コンビニで酒を買って歩いた。鴨川にかかる橋の上でうずくまって欄干に持たれた。

次でこの連載も終わる。僕は何の爪痕も残せなかった。

悔しいな、とつぶやいた。自然と口から声が漏れた。雨が降り続けていた。遠くのネオンが視界の中で少しにじんだ。これまでの一年が走馬灯のように自分の頭の中でフラッシュバックした。次々と流れていった。過去の匂いとか景色とか感触が僕の意識の上を通り過ぎて行く、頭が変になりそうなスピードで。この1年だけじゃなくて、それはやがて29年になった。悔しかった気持ちが、死に際のマッチ売りの少女が見た幻影のように、浮かんでは消えていった。その数を、僕は指で折って数えた。この悔しい気持ちを永遠に忘れないでいよう、と僕は思った。

悔しかった景色

小学生だった夜、祖母が死んだ時に、素朴に思った。人間は死んだらどうなるんだろう、初めて思った。考えれば考えるほど恐ろしいと思った。宗教が自分の助けになるだろうか、と考えた。ならない、と思った。僕はそれを信じられそうになかった。

いじめられていた時に思った。それは、塾の先生が中学受験の合格祝いに僕にプレゼントしてくれた万年筆だった。ポッキーみたいにぱきんと折られた。物を大事にすればするほど傷つくのだということを初めて知った。

最初に小説を読んだときにも思った。こんなにすごい小説を書いているのが自分ではなくて他の誰かだという現実に打ちのめされた。悔しかった。本屋で僕は突っ伏した。立ち読みしていたのだ。両親に自分の考えを話しても、うまく理解されない。ディスコミュニケーションが膨らんでいく。すれ違いはどんどん大きくなっていく。どうしてだろう、と僕は思った。

ディスコミは膨らんでいく。人間とはうまくいかない、コメント欄ともうまくいかない、対人関係にまつわるすべてが恐怖の対象だ。誰ともうまくいかないのだから、高校時代の恋愛なんて絶望だった。好きな女の子がいた。当然うまく話せない。僕は彼女の顔を見続けた。窓際の一番後ろの席から。彼女は僕のことをどう思ってたんだろうか。気持ち悪い奴だなぁと思ってたんだろうか。多分そうだと思う。それでも何度か彼女と話した。

「奥山くんって……本当に文章うまいよね…………将来………………」
「……別にそんなつもりないよ…………なれるわけないし」

彼女はおかしそうに笑った。

「じゃあ、一体君は何になるつもりなのさ」
「うーん、無職かなぁ、無職のニート」

もちろん僕は告白とかそういうことはしなかった。出来なかったからだ。どう言えばいいのか、わからなかった。ときメモじゃ伝説の樹の下に呼び出してたけど、僕の高校にはそんな木はなかった。それにもちろん告白したって、結果なんて決まっていた。フラれるに決まっていたからだ。大体彼女はクラスメイトの川鍋君から聞いたところによると、軽音部の本山君のことが好きらしかったのだ。茶髪で背が高くてしゃれてて。あんな奴なんか偽者だ、というのが僕の口癖だった。でも真実はどうだ? 僕が偽者だったのだ。何も成し遂げられない、僕が。

ミョンちゃんと別れたときも思った。この別れ話をしている六畳一間の景色を僕は忘れないでいようと思った。

友だちが自殺したときも思った。深夜公園のシーソーに揺られて、風に何度もぶつかりながら、この感触を忘れたらいけないと思った。

東京から京都に帰る時も思った。悔しいなと思った。帰り際にネットの友達がくれた葉巻を吸った。葉巻を吸うのが初めてで、僕はそういうのが何回かに分けて吸いきるものだということを知らなかったのだ。なかなか吸い終わらないなと思いながら、新幹線の喫煙所で葉巻を吸い続けていたら、東京から名古屋までずっと吸っている羽目になってしまった。自分の間抜けさに苦笑しながら、この悔しさを忘れないでおこうと思った。

コメント欄

悔しかった。腹が立った。実力のない自分にムカついた。何度も欄干を殴り、蹴り、うなだれた。

・話が無駄に大きくて、中二病的ですね。普通にやって行ける人がやって行けてるのは、現実と折り合いをつけているからですよ。いつか死ぬという現実も、適当に目を逸らすか、割り切っている。

折り合いがつけれないんだ。色々全部、割り切れないんだよ。なんでみんな、そんなに割り切れるんだ? 1を3で割った後に永遠に続くあの3333333……みたいな気持ちが、あれからも今も、まだずっと続いてるんだ。紙の端まで書いても書ききれないその3を、今も書いてる。

・最後の、と書いてあったので、私も書いてみる。私は奥山さんと似た感じかもしれなかったけど、今生きてる。20位の時に死にたすぎて自殺未遂。一年間病院に入れられてその後数年精神安定剤でぼやっとしてた。でもなんだか数年働いて、そんなときに、そのときの彼氏に言われたのが。ねぇ、死にたいって思うのって偉いの? たぶん、死にたい死にたいっていう私を、偉そうにって思ってたんだと思う。そのたった一言だけで私はなぜか立ち直って、今はゆるい仕事で大して給料もらってなくて生活厳しいけど、生きてる。死んだら、時々楽しいドラマとか、友達とのやりとりで笑ったりとか、そんなささいなことなくなっちゃうし、それがもったいないと思えるから。あと、死んだとして、あ、そうなの、って思われるだけだろうから、それがもったいないからかもしれない。どうせなら惜しまれたいじゃない? 子供作る気も、何も残したいものもないんだけど、ただ今無くなるのが惜しい。それが私の今。

・生きている理由? 生まれてしまったからでしょ? で、どうやって生きていくかを、学校そして社会で自分で学ぶのでは? 生きている理由は自分でつかみ取るしかないと思います。

・あなたが、考えている程度のことを、多くの人が口に出さないだけで考えていますよ。そして、自分の答えを見つけています。他人に答えを教えて貰ってもあなたの答えじゃないから納得なんてできませんよ。

・意味は無いよ。逆に意味がない=「虚しい」って直結するのがよくわかんないや。後人生が永遠だったらまじめにビルを建てていたってのもわかんない。人生が永遠だったらそれこそ虚しいと自分は思う。あなたが考えて出している無意味=無価値ってのはたぶん今まで生きてきてどこかで作り上げられた固定観念でしかないよ。僕のもそうであるように。天気が良くて窓を開けたらいい感じに風が吹いて朝飯が旨いだけで全然満足だと思う。

・生きている意味を探すのが生きることかもしれないと思う。

無へ還ろう

コンビニで預金残高を調べたら、そこそこ残っていた。就活のためにバイトして貯めたお金だった。どうせなら最後に、このお金をぱーっと使い切ってしまうことにした。服屋に行って、2万もするシャツも買った。ゲーセンに行ってメダルゲームをすることにした。1万枚もメダルを買った。プッシャーゲームという、メダルが一杯うず高く積み上げられている台に、投入口からメダルをどんどん投げ入れて行くゲームをやることにした。中々メダルは減らない。最後のほうはもうやけになっていて、次々に機械的にメダルを投げ入れていった。正しくお金を浪費しているという感じだった。もっと浪費しようと思った。

やったことのないパチンコに手を出した。僕が下手なのもあって、一日で3万円負けた。競馬で大穴に2万円賭けてみた。負けた。PS4を買った。歳のせいだろうか、最近のゲームにはついていけなかった。CGだけはやたらリアルだった。でもそれだけだった。そこには何もなかった。虚無だった。バカみたいだと思った。デパートで1000円もする変なジュースを買って飲んだ。不味かった。

一生使うことのないであろう変な雑貨を買った。誰かにあげようと思った。でもあげる相手もいなかった。行く先々で、合間にコンビニで酒を買って飲んだ。今まで選ばなかった高い酒を買うようにした。すぐに酔った。今までのケチケチとしたお金の使い方がバカらしくなって来た。生活が、もう自分にはこれから先残されてはいないのだと思うと、本当に自由にお金を使うことが出来た。

それから一眼レフのカメラを買った。もう、そんなにお金がなかったので、一番安いやつを買った。一眼レフで次々と身の回りの写真を撮影してみた。それで次々といろんな写真を取った。電車の走る光景やビルの屋上から見える光景、葬式場に墓、死ぬと思うとすべてが美しく見えた。すべてが美しく見える、でもそんなのは嘘だと思った。そんなのは、僕の脳が見ている夢幻にすぎないのだ。人生の本質は虚無だ、虚無、それしかない。美しく見えるとしたらそれは僕の脳みそが、バカなせいだと思う。

結局あんまりいいお金の使い道が思い浮かばなかった。最後にミョンちゃんのいる国まで旅行に行って会うのもいいかもしれないと思った。でもお金が足りなかった。別に片道分の飛行機代さえあればいいと思ったのだけど、そのお金すら僕にはなかったのだ。まったく人生ままならない。まぁそんなこんな、それなりにそこそこ破滅的な生活を送りながら、僕は夜になるときっちり家に帰って、親に残してもらっていた晩飯を食べて寝るというへらへらした生活を送っていた。

銀行強盗が警察に捕まる前に盗んだ金でパーッと最後に遊ぶ、みたいな、そんな気持ちだった。そんな映画を昔どこかで見たような気がした。最後に海に行くことにした。というのは、そういう犯人は、確か海に出かけると、相場が決まっていたような気がしたからだ。電車を乗り継いだ。海に行くのだ。僕は、はしゃいだ気持ちになった。海なんて見るのは何年ぶりだろうと思った。うきうきした気分だった。そういえば、とふと思い出した。パソコンを破壊して来るのを忘れてしまった。それが唯一の心残りだった。でも今更引き返せない。しょうがない、と僕は諦めた。

海の近くの駅を降りて、見知らぬ道を歩いた。自由だ、と思った。もっと自由になりたかった。海は汚かった。ゴミだらけだった。ゴミみたいな僕の終着駅にふさわしいとも思えた。まだ泳いでる人なんていない。そんなに人はいなかった。

・毎日大変なこと、暇なこと、悲しいこと、嫌なことありますが、自分にとってのちょっとの幸せを味わうために生きています。たとえちょっとの幸せが無くても、それを味わえるように頭と体を動かしています。たぶん、死ぬときにそのどれかを一つでも思い出しながら死ねれば儲けもんかなと思っています。

まぁ色々あったけど楽しい人生だったなと思った。エヴァの『甘き死よ、来たれ』を口ずさんだ。無へ還ろう、無へ還ろう、っていうやつだ。昼間の海は炎天下だった。僕は靴を脱いでズボンのすそをめくって、それから海に足を踏み入れた。冷たかった。汚れた海が泡立っていた。僕はどこまで行けるだろう。そのとき電話がかかってきた。出ると担当編集者からだった。

「いやいやいや! 次で最終回じゃないですか! このままじゃアンタ、本当にただの無職で終わりますよ。そんなんでいいんですか?」

おお、これが噂に聞く原稿の催促ってやつだ。なんだか、作家にでもなったみたいだ、と僕はちょっと感動した。

全くどうしょうもない気分だった。救いようのない気分だった。しかしそこでふと我に返った。よく考えてみたら、僕が死んで最終回ということにするのであれば、最終回の原稿を書く人間がいないじゃないか。誰が書くんだ? ということに気付いたのだ。誰かゴーストライターでも雇うか。と一瞬バカなことを考えた。それから次に担当編集者に代筆してもらおうかとも考えた。結局この連載はダメだった。生きてる意味もいくら聞いても全然わからなかったし。

でも最終回の原稿を誰に頼めばいいんだ? 正直言って誰にも書かせたくなかった。これは最後まで自分で書きたかった。失敗でもよかった。失敗でもいいから。その失敗の責任を自分で取りたかった。

家に帰って僕は最終回の原稿に取りかかることにした。それからふと、デスクトップ画面の隅の方に置いてあったファイルに目がいった。そのテキストファイルは書きかけの小説だった。ほとんどラスト付近まで書いて、それから、完成させるのが嫌になって放り出していたものだった。もう小説を書くことなんて二度とないだろう、これから先。でもそれもそのままにしておくのも惜しいような気がした。どうせなら、それも最後まで書き上げてしまうことにした。

奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/