生きているのが嫌だもう駄目だ死にたい、と思う。文章を書きたくない指を動かしたくない。疲れている。労働をしたわけでもないのに僕はずっと疲れてばかりいる。毎日のこの疲れは一体何なんだろう。
どうせ僕に明るい未来は待ってない。いいことのない日常を受け入れて生きていく、そんなセンスが僕にはない。泣き言しか浮かばない。誰かに話したくてたまらない。唇が錆びついてるような気がする。本当に大事な言葉を、声を通して表現するという回路が、なくなっていく。
僕はよく彷徨をする。当てもなく歩き回る、さまよう。夜を歩くのが好きだ。昼を歩くより好きだ。時間が遅くなるにつれて、道にはどんどん人の気配がなくなっていき、まるでこの世に自分しかいないみたいになるのが好きだ。人と会うより好きだ。核戦争後の世界に取り残された、たった一人の生き残りみたいだ。道というのはまるで永遠みたいに続いている。自分を見つめるより好きだ。どこかに果てはあるんだろうけど、僕は多分たどり着きはしないだろう。僕の住んでいるところから、2時間も歩けば繁華街にたどり着く。
23時を過ぎていた。服屋とか本屋とか喫茶店とかは閉まっていて、代わりに、飲み屋とキャバクラと風俗があいている。「おっぱい! さぁ、おっぱい!!」というヤケクソ気味の声が飛んでくる。つられて僕もヤケクソになってくる。悲しい気持ちになってくる。悲しい気持ちなんて誰とも共有できない。人と人とは分かり合えない。
雨が降り出す。携帯で自分の連載を検索した。雨に濡れて画面がなかなか反応しない。messy、messy、と指でしつこくなぞる。画面を、車のワイパーみたいに、何度もTシャツの裾で拭う。やっと自分の連載一覧のページにたどり着く。ページを見ながら、この一年、いろんなことがあったな、と思った。東京に呼んでもらってKENJIさんと対談したり、座禅もしたし競馬も行ったし友達の結婚式にも出てスピーチもしたし。何より、ミョンちゃんと再会したし。何せ、連載を始める前の僕の生活ときたら、本当に何もない無、虚無の状態で、それに比べればこの一年はいろいろ激動だったのだ、こんなでも、自分にしてはさ。いろいろチャンスももらった。楽しかった。でも、本気で頑張ったけど、やっぱり駄目だった。僕は失敗した。
コンビニで酒を買って歩いた。鴨川にかかる橋の上でうずくまって欄干に持たれた。
次でこの連載も終わる。僕は何の爪痕も残せなかった。
悔しいな、とつぶやいた。自然と口から声が漏れた。雨が降り続けていた。遠くのネオンが視界の中で少しにじんだ。これまでの一年が走馬灯のように自分の頭の中でフラッシュバックした。次々と流れていった。過去の匂いとか景色とか感触が僕の意識の上を通り過ぎて行く、頭が変になりそうなスピードで。この1年だけじゃなくて、それはやがて29年になった。悔しかった気持ちが、死に際のマッチ売りの少女が見た幻影のように、浮かんでは消えていった。その数を、僕は指で折って数えた。この悔しい気持ちを永遠に忘れないでいよう、と僕は思った。