最終回。最後に何を書けばいいんだろう? ピストルをこめかみに当てられながら、何か言い残すことはないか、と言われてる気分だ。でも何もない。浮かばない。本当はもっと綺麗に締めくくれるハズだったのに。
大体、物語の主人公はラストで何かしら成長して終わるものだ。男女は出会ったら結ばれてハッピー、貧乏人は金持ちに、浪人生は大学に合格、刑事は真犯人逮捕、勇者は魔王を討ち果たす。無職だったら? 働くのが当たり前だ。それがストーリーってものなのだ。それは物語が人間に科す刑罰みたいなものだ。
なのに、僕はなんだ? いや、まさか僕自身、働かないまま終わりを迎えるとは思わなかった。なんだこれは? マジで嫌になる。結局六畳一間からどこにも行かず、ずっと悩んで悩み続けて終わるのか? おいおいおい、ちょっと待ってくれよ、そんなんでいいのか?
結局、深夜に書き始めて一行も書けず、気づいたら外が明るくなっていた。
・小説書いてる話は?
小説は、完成させて出版社に送った。それはある意味、僕の遺書みたいなものだった。
心に穴が開いたような気分だった。自分の半身をどこかに放流したような気持ちになった。それはきっと、僕の影とか負みたいな部分だった。そんな「生活に関係のない自分」みたいなものが、誰しもの中に詰め込まれてる。日々生活に必要なものなんて、限られていて、でもそれに比べて人間の脳の中にある感情とか考えは凄く雑多で、中には何の役にも立たないようなものがたくさんあるのだ。誰もが折り合いをつけて生きてる。
これからどうしよう、と冷静に思った。どうするもこうするもない。生きるか死ぬかだ。
それを、もう何千年も人類は悩み続けて来たのかと思うとぞっとする。いい加減飽きろよ、とも思う。もしかしたら、もっとずっと前、言葉なんてなかった時代からそんなことを悩み続けてきたのかもしれない。でも、言葉がないのに、どうやって悩んだんだろう。「この人生は生きるに値するんだろうか」という言葉の、言葉にならない部分の、この感情の感触。それを、昔の原始人も、僕と同じように感じてたんだろうか。虫も木も、イルカや猫のように悩むんだろうか?