
連載:名前のない男たち/鈴木えみ
風俗で働く女の数以上に、風俗でヌく男たちがいる。
人前でハメるAV女優の数以上に、モニターの向こうでヌく男たちがいる。
そんな名前のない男たちの、地味めなインタビュー。
激安のでぶ専ホテヘルに通う男性
浩二(40歳)
都内に1人暮らしをする独身男。ひとりで始めた中古マンション投資が軌道にのり、ここ2年ほどは不労所得でなんとか生活していけるようになった。生活に必要な経費をのぞき、月に20万ほどは自分のために自由に使えるお金がある。彼女はここ数年いない。空いている時間は、熱帯魚や、飼っている珍しい種類の犬の世話をして、マイペースに暮らしている。
少し肌寒い、薄曇りの平日午後。東京・新宿の東口交番前に、仲村トオル風の顔立ちに少し影をかけたような雰囲気の浩二が立っていた。手ぶらのようだ。浩二と私は共通の友人がいて、初対面だがインタビューに快く応じてくれることになったのだ。柔らかな物腰で、落ち着いたトーンで話す浩二とはすぐにうちとけた。駅に近いカラオケボックスに入り、ゆっくり話を聞くことにした。
――浩二さんはいわゆる“でぶ専”と聞いたんですけど。
「そうそう。もう10年以上、都内のでぶ専の同じお店をずーっと使ってる」
――どのくらいの頻度で利用してるんですか。
「う~んとね……、そのお店には、月1回は行っちゃってるんじゃない。ハハッ、依存症だよね」
いきなり「依存症」という単語を使った浩二に、正直驚いた。風俗店や嬢からすれば、月に1度、コンスタントに通ってくれるお客さんはどれだけありがたいことだろう。
それに私自身、現役時代に「週に1度、必ずデリヘルを自宅に呼ぶ常連さん」がお客だったことがある。彼に比べれば、浩二の「月に1度」は「依存症」という言葉で自嘲気味にいうほどではないはずだ。
――依存症……なんですかね? あ、料金がすごく高い風俗に通ってるとか?
「ううん、料金は高くなくてむしろ安いと思う。ホテヘルなんだけど、100分で、ホテル代と指名料込みで1万5千円くらいかな」
――えっ、ホテル代も指名料も込み込みで。それは安い。
「そのお店は、(サービスの値段が)安いからかどうかわかんないけど、店から女の子への研修がないんだって。だから女の子が、あまりプロっぽくない」
大体の風俗店は、接客の基本や、ヌクための技術(手コキ、素股など)を学ぶための研修がある。一昔前は男性スタッフが教えることがほとんどだったが、近ごろはわざわざ女性講師を雇い、接客サービスのノウハウを新人にしっかりと身に付けさせるお店もある。また接客についての細かいマニュアルを読み込ませるやり方のお店もある。浩二の使うデリヘルは、そういった人件費を割いたり、風俗嬢としての心得を教えるタイプの店ではないのだろう。
――プロっぽくない、というのは?
「女の子によって、接客の仕方がバラバラなの。イソジンでうがいしないうちにキスする子もいれば、ぶっきらぼうでほとんど会話しない子もいる。態度が悪い子に当たるのはイヤなんだけど、だからこそ会話が全然事務的じゃなくていいんだよね。でもそのかわり、お店側の女の子へのフォロー体制があまりないから、長く働く女の子は少ないね。みんな、わりとすぐいなくなっちゃう。20代の女の子が中心のお店なんだけどね」