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昭和エログロサブカルvsおしゃれサブカル、少女のための『少女椿』が描いた復讐

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 漫画原作を実写映画化すると、俳優の雰囲気や造形の原作との差異といった2.5次元問題だけでなく、ストーリーや世界観の違いが大きく取り上げられ、賛否両論に分かれる傾向があります。

 実写映画『少女椿』の場合は、「見世物小屋がサーカスに変更されている」「物語の中核を担うキャラクターであるワンダー正光が“小人”と称されない」「フタナリカナブンのビジュアルが大きく変更されている」、「丸尾末広作品でおなじみの『眼球舐め』シーンには、『アンダルシアの犬』の剃刀で切断される眼球や、『時計仕掛けのオレンジ』で主演のマルコム・マクダウェルが失明しかかったという目蓋クリップ止めシーンなどのようなドアップのインパクトを期待していたのに」といった不満が上がっています。これらの「原作通りではない!」ことに起因する不満は、主に「昭和貧困と差別のリアルと全共闘左翼的ジャーナリズム」的な視点を持つファンから発されており、映画館が青文字系やガーリー系ファッションの女性で溢れかえっていたことからも、「受動的な少女のままならなさと反抗」を見いだす層には好評であるよう感じました。

 確かに、原作の重要なポイントであった「見世物小屋」や「ワンダー正光への“小人”発言」が改変されてしまったことは残念ではありますが、これは、それだけ現在の基準が厳しくなっていることの裏返しでもあります。

 事実、「フタナリカナブンの犬鍋下ごしらえ」や「真冬に裸で折檻(水責め)されるみどり」などの描写は、原作でも改訂されていますし、上記のシーン込みで原作『少女椿』を世界観含め忠実に再現したアニメ映画『地下幻燈劇画 少女椿』(1992年)は、1999年に成田空港とドゴール空港の税関でフィルムが没収され日本国内上映が禁止となり、カルト的な人気を誇るものの未だにDVDやブルーレイ化はされていません(フランスでは『MIDORI』のタイトルで2006年にDVD化)。「原作通り」に作るハードルの高さ(「原作通り」に作ったらそもそも上映できない)がうかがい知れます。

 原作『少女椿』で描かれるエログロの中にある差別や貧困の描写はほの暗くリアルで魅力的ですが、「言葉遣い」などのタブーに対して、実直かつジャーナリスティックにアプローチした結果、上映が出来なくなってしまっては本末転倒になることもあります。

 『少女椿』と同様に「見世物小屋」を舞台に差別構造の複雑さを描いた作品に、『フリークス』(1932年)がありますが、実際の見世物小屋で働く人気芸人たちを出演させた結果、30年間封印され、監督トッド・ブラウニング自身も以後映画制作に携われなくなったという歴史があります。

 ゆえに、実写映画版『少女椿』のように、タブーに対して原作とは違う角度からアーティスティックにアプローチすることは、有意義な試みであると言えるでしょう。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」