連載

不可逆的なダメージを受けた魂の再生を描く『銀の匙』

【この記事のキーワード】

想像を裏切られるアニメ

 豚丼ちゃんの処分について、八軒が自分なりの答えを出した第10話は、私が真剣にこの作品を見るきっかけになった回でした。八軒の出した答えとは、屠殺されて肉の状態になった豚丼ちゃんを、夏休みのバイト代で買い、食べることを通して豚丼の供養をする、というものでした。

 しかし八軒の決心を、私は鼻白んだ気持ちで見ていました。

「どーせ、先生が生きたままの豚丼ちゃんを、八軒くんに引き渡すんでしょ?」

 と思ったからです。

 先生が肉の入った段ボールを八軒に渡すシーンでは、豚丼ちゃんが「ぶひー!」と元気いっぱい出てくるのを今か今かと待ちました。箱からビニールにパックされた肉が次々出てきても、まだ信じられず、「加工室のどこかに豚丼がいて、きゅーって言いながら出てくんだろ?」としつこく思っていました。

 けれど、豚丼ちゃんは出てこないままでした。豚は屠殺され、肉になったのです。八軒は豚丼ちゃんの肉51キロを、夏休みのバイト代25,000円で買い取り、それを使ってベーコンを作ります。そして八軒はクラスメイトの皆と一緒に豚丼を食べ、最後に手作りベーコンを実家に送りました。

 情が移って、主人公が名前までつけた動物キャラを、屠殺して、加工して、食すところまで見せてくれるアニメは初めて見たので、非常に驚きました。

『銀の匙』は来年1月からシーズン2の放送も予定されており、私は楽しみにしています。八軒が送ったベーコンをどう扱うかで、彼の両親がただ単に厳しい人たちなのか、本当の毒親なのかどうかが、わかると思うからです。

運命を選び取ることで、挫折後の人生を立て直していく

 挫折とは、ちょっとがっかりしたとか、しゅんとしたと状態を指す言葉ではありません。私が思うに、挫折とは、魂が不可逆的なダメージを受けた時のことではないでしょうか。ガラス細工が欠けてしまったときのように、性格やアイデンティティが変わってしまうほどのダメージ経験、それが挫折なのではないか、と。

 八軒は、エゾノーに進学したことを「逃げ」だと言っています。けれど、私は、八軒が「逃げ」たのではなく「自分の運命を選びとった」のだ思います。エゾノーに進学し、寮で生活する、という風に自分の環境を変えたことは、八軒の英断だと私は思います。

 身体の小さな豚丼ちゃんは、生まれた直後の餌の競争で負けて以来、二度と積極的に餌をもらおうとはしません。自分のために闘おうとはしない豚丼ちゃんを例に、先生がこう語ります。

「これが子豚の性質だ。一度『ここ』と決めると、劣った環境に居続けてしまう。最初の競争に弾き出されただけで、『ここ』でいいと決めてしまう。お前たちは、こうなるなよ」

 『銀の匙』は、積極的に運命を選び取ることで、挫折後の人生を立て直していく一人の高校生の姿を、私たちに見せてくれる作品だと思います。

■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。

1 2

大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』