インタビュー

「お母さん」よりも楽しそうな仕事に就きたかった/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里【1】

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下戸山 あれですよね。ロリコンとかそういうのも含めて欲望が他者を傷つけうるっていうことは、もう仕方ないっていう風に認めて、それがどんだけ正しい人の正しい欲望であってもその可能性があるってことを認めて、その上で欲望の多様性を見て欲しい、認めて欲しい、っていうのが柴田さんの通しての意見なのかな。だから、とりわけ男性から女性へのエロい欲望が、「けしからん!」ってバッシングされることに憤りを感じている。

堀越 そのセクシャルな欲望って、たとえばちょっとセクシーな萌えキャラのまちおこしキャラクターが批判されたり、っていうようなお話ですよね。うーん、批判する側の立ち位置としては、ああいうものが、あまりにも大っぴらに、欲望そのまま垂れ流されてしまうと、女の子の方がそれを内面化してしまうから、「どうぞどうぞ」とは言えないんじゃないでしょうか。ゾーニングして大人同士が楽しむ分にはいいけど、子供が見るようなところで欲望全開のイメージキャラクターやポスターを出しちゃうと、女児は「男は女をそういう目で見ている/女はそういうものなんだ」とインプットされてしまうし、男児は「女をそういう目で見ていいんだ」とインプットされてしまう。自分のセクシャリティをまだ自覚できない世代の少女たちが、性的なモノとして自らを扱ってしまい心身の健康を損ねる弊害は、英語圏ではセクシュアライゼーション(sexualization)と言われて社会問題視されているんです。わかりやすい例でいうと摂食障害とか。だからといって、全部批判、放送禁止じゃないですけど、規制すればいいのか、っていう、そういう問題でもない。

柴田 そうですね。

堀越 誰かの欲望を批判する側もまた、自分の欲望があるわけですよね。それぞれに欲望はあって当然で。欲望を消すことはできないということはわかります。
そういう問題について私が思うのは、ディズニーがかつてはそれこそ、人種差別であるとか、女性蔑視を公然としていて、「プリンセス願望をかき立ててよろしくないです!」といった批判を受けて、変容してきたこと。批判を受けて萎縮するんじゃなくて、批判を取り込むかたちで乗り越えて来てるわけじゃないですか。批判を飲み込んで客層を広げてどんどん深みを増していくという流れになっていければいいと思うんですよね。

柴田 うーん、私は、日本の「おっぱいデカい女ばっかり出てきてけしからん」と批判されるような、主に男性を視聴者層に想定した深夜枠のアニメって、すごくクィアだと思うからよく連載でも取り上げてるんですね。堀越さんは著書の中で、「日本のアニメだと『ドラえもん』のしずかちゃんみたいな女子か、『バクマン。』の頭が良くて嫌な女タイプしか描かれない」と批判をされてますけど、意外と、女児向けアニメや少女マンガよりも、男性向けのコンテンツで、様々なタイプの女性が描かれていると私は見ているんです。

堀越 『涼宮ハルヒの憂鬱』とかですか?

柴田 ハルヒもそうですね。ライトノベルもそうですし、ハーレムラノベも、百合系も、日常系・空気系もです。

下戸山 そうなんですか?

柴田 私はそう見ているということなんですが、たとえば「日常系」のマンガやアニメでいえば、そこに登場する女の子たちの振る舞いが「女らしさ」に固定されていなくて自由だと思います。イジメっ子やイジメられっ子、優等生とモテる子と天真爛漫な良い子、みたいなキャラクターの割り振りじゃなくて、コミュ障だったり友達いない子だったり痴女的な子だったりが、のびのびした描かれ方をしているんですよ。だから、キャラデザインだけをあげつらって「これだから乳袋は」とか、そういう批判をするのは違うと思うんです。

堀越 そうなんですね。ただそれが、子供に届いてない部分がちょっとありますよね。一般的な小学生向けコンテンツだと多様な女性像はまだまだ少ない気がする。たくさん見ているわけではないから言い切れませんけど……。

柴田 一般的な小学生向けコンテンツや女児向けでも、例えば、『アイカツ!』や『プリパラ』は多様な女性像を描いていますが、二元論的に「アイドル=客体」としてのみ読めば、「女児向け作品では女性的な職業のみが取り上げられている。」とも読まれるのでしょうね。社会の中で性差によって期待されるステレオタイプを演じつつも、期待されるものとは別の達成に向かうことでステレオタイプな認識を攪乱するという意味ではめちゃくちゃクィアなのですが。

下戸山 うーん、ちょっと今、柴田さんのお話伺っていて思ったのは、アナ雪とかズートピアとか、そういうディズニーのアニメはもう世界に向けてものすごい大規模でやっている中で、保守にならずクィアなものを出していくっていうところが評価されているんだと思うんですけど。日本の深夜アニメだったり特定のオタクジャンルの人をターゲットにして作られたものの中にいくらクィアな作品があっても、それはちょっと比較が難しいんじゃないでしょうか。で、日本国内でマーケティングをして、不特定多数、大多数に向けて作られているものは結局、クィアじゃなくて保守になっているとしたら、やっぱり、そことそこを比べて、話をするべきなのかな、とは思ったんですよね。

柴田 それはそうですね。

ピンクもプリンセスも「強さ」の象徴

下戸山 というわけで今日は、日本の女児向けコンテンツの話をしましょう。

堀越 私は個々のコンテンツの話になると、全然わからなくて申し訳ないんですけど。プリキュアも全シリーズちゃんと見てないですし。アイカツとかプリパラとかも、全然、ちゃんとチェック出来てなくて。

柴田 プリキュアもアイカツもプリパラも、各キャラクターに一応のイメージカラーが割り振られているところが共通しますが、「ピンク」のキャラについてお話していきましょう。アイカツって、人気キャラクターのランキングを毎年出してるんですよ。それで、ピンク色をイメージカラーにしているキャラクターが1位というわけではないんですね。ストーリーの中での無敵キャラ、「俺TUEEEE系」が1位になるんです。

堀越 らしいですね。女の子の自意識の中で色々あるようで。小学1年生ぐらいになると、「本当はピンクが好きなんだけど、そんな自分が恥ずかしい」という気持ちが芽生えて、あえて紫のキャラや黒いキャラに行く、っていう傾向が。

下戸山 それって、絶対に「本当はピンクが好きなんだけど、恥ずかしいから」なんでしょうか? うちの娘は今5歳ですが、4歳で「NOTピンク」派に転向したんですね。4歳になったばかりのタイミングで、「水色が好き、紫が好き」と言いだして、現在まで継続しています。アイカツでは神崎美月さんや霧矢あおいちゃんで、プリキュアではキュアムーンライトとキュアダイヤモンドが好きなんですって。
ただ、「本当はピンクが好きだけど、恥ずかしい」という自意識に基づいての転向なのかというと、少し違うような気がするんです。
なぜ彼女が水色や紫色のキャラクターを好むかというと、たとえばプリキュアの場合、それが「セクシー/クール/賢い」キャラに当てられる色だからなんですね。ピンクやイエローは「ちょっとドジ/元気一杯/ポップで明るい」。それに当てはまらないピンクやイエローのキャラもいるにはいるんですけど。引っ込み思案で運動神経が悪いとか。で、ピンクやイエローの属性は娘的に「イケてない」んですよ。セクシーでクールでかっこよくて美しくて勉強の得意なキャラクターに「強さ」を感じて、憧れているようなんです。

堀越 そこでもピンクはちょっと子供っぽいっていうイメージ?

下戸山 そうなんだと思います。プリキュアごっこを家でやるときに、ママはもっぱらピンクの役をやらされていて、いい加減にしてほしいぞと。「ママも本当はキュアリズムとキュアビューティが好きなのに、キュアラブリーとかキュアドリームの役なんかやりたくない」と抗議して、今は二人ともクール系のプリキュアを演じる方向でやってます。

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