インタビュー

ダサピンクマーケットの根底にあるのは<良い女><悪い女>の分断ではないか/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里【4】

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下戸山 失礼かもしれませんが、名古屋の女性って、濃いイメージが。派手でギラギラした強い女のイメージが流布してますよね。あくまで雑誌などから受けるイメージで、偏見ですけど。実際に私が出会ってきた名古屋出身の女性でそういう方はいなかったし。

柴田 イメージ通りの女性たちもいますよ。名古屋のお嬢様系私立女子校では、毎シーズンごとにブランドの財布を買い換えて“もらう”のとか、親の財力でのマウンティングはフツーにありますからね。

下戸山 わあ。そういう価値観のある地域で育ってきて、東京の美大に進学して。ピンクを「ドラァグでイイネ!」って思ったのはいつごろですか?

柴田 思ったのはいつだろう……「バービーになりたい女性」みたいな、ピンクにアディクト(中毒)してる人たちの存在に刺激されて、だったと思います。

なぜmessyの広告はエロ一辺倒なのか

下戸山 ダサピンクの話で、ちょっといいですか。私はとかく「男はこう、女はこう」と性質を性別で分けられるのに反対で、未だに多くの仕事の現場で「女性らしい企画を」と求められることに非常に納得がいかなくて。これだけ女性が、少なくとも単身者に関して言えば、外で働くことが当たり前って社会にやっとなって、それでも「女性は、女性らしい企画を、是非」って。

堀越 求められますよね、ええ。

下戸山 女性の視点で、とか。私も求められることがしばしばありまして、「はぁ?」って思うんです。逆に男性らしい視点って何なのか。というか、「女性にウケるものはコレだ!」なんて打ち出し方そのものがダサピンクを生むわけじゃないですか。ターゲットを性別で分けてることが。

柴田 企業が求めるピンクと、消費者女性の欲しがるピンクに乖離がある。私も女性目線を生かした観点で~、とか頼まれると困ります。だって私は「女性らしい女性」じゃないし。受け身じゃないし従順でもない。でもそれって普通のことじゃないですか。実は女性にも攻撃的な側面はあって、それって良いことなんだけど、社会がそれを許さないから、だからこじれちゃうんじゃないかな。

堀越 社会が許さない、それはあるかもしれません。

下戸山 本当それ。この「messy」というWEBサイトを立ち上げからやらせてもらってるんですけど……読者が無料で閲覧できる情報サイトなので、広告が収入源なんですね。で、一番最初のメディア立ち上げ時に、messyの読者ターゲットを決めなきゃいけなくなったんですね。なぜかというと、クライアントも代理店も「ターゲットのわからないメディアには広告が打てない」からです。
さて、じゃあどんな読者がターゲットかというと、雑な言い方をすれば、messyを読むのはたぶん反骨精神を持った女性ですよね。あとは女性向けにアダルト情報をばんばん出すサイトというのは最初から社内で決定していたことだったので、そういう情報を読みたい女性。するとですね、まず前者をターゲットにした広告って存在しないんですよ。かつ、アダルト情報が掲載されているメディアには、非アダルトな企業・商品の広告は打たれない。というわけで、後者のみがターゲットということになって、今は「読者はエロい女性ですよね」ってことになってる。<エロい女性が読んでるサイトのはずなので、エロい女性向けの広告を出す>って。

堀越 なるほど、だからエロマンガの広告ばっかりで、化粧品とか全然ないんですね。

下戸山 VIO脱毛とかダイエットとか巨乳系の商品とかがギリギリ。ナショナルクライアントとか100%無理ですね。「messyは“特殊なエロい女性”に向けて作ってるんじゃなくて、全ての女性はこういう要素を持ってます、誰でも見ます」っていう話をしたところで、絶対に通じないです。サイト内に「セックス」「フェラ」「まんこ」などの単語があるし、たとえこれらが伏せ字でもアダルト情報には変わりないので。結局、タブーなんですよ。みんなフェラしてるはずなのに~。

柴田 それ、読者もけっこう通じてない部分がありますよね。たとえばジェンダー系の記事に「こんな真面目なこと言ってるのに、記事がエロバナーだよ、とほほ」みたいな感想がつくじゃないですか。

下戸山 そうですね。エロマンガのバナー広告が不快だ、という読者の声も届きます。でもそれで、うちはもうエロマンガのバナー出しません、エロ系の広告は一切入れません、ってなったら、即赤字になって、サイトが運営出来なくなって、何も発信出来なくなるんですよね。

柴田 女性の性的な欲望ってずっと抑圧されてきたものだから。そこに向けた広告自体、少ないんじゃないですか?

下戸山 その通りです。非常に限られていますよ。

柴田 BLなり、異性・同性への欲望であり、別に禁止することはないと思う。

下戸山 うん。「オシャレもグルメも仕事(転職)も住宅にも興味のある育児世代のフェミニストがエロ動画を見る」って、フツーのことなのに、それは両立しないと思わされてる。両立したらいけない、ってなってるから、おかしいと思うんです。

堀越 女性は娼婦と聖女に分断されるというよくあるお話ですね……。messyは育児系の記事を出してても、お母さん向けの広告なんか絶対出ないですしね。アースカラーを好む2児のマザーである私はmessy読みますけどね(笑)。

下戸山 ありがとうございます。でも「主婦も読んでます、お母さんも読んでます、子育て系の記事いっぱい出してますし、これだけPV取れてます」って証拠があったとしても、子育て層に向けた商品の広告なんて入りませんよね(笑)。サイト内でセックスとかAVとかそういう話をしてるんだったら、そこにお母さん向けの広告が出ることはない。どっちの情報も載せたいんですけど、どちらかにするのが「普通」なんですよね。で、女性は、そうやって、分けられているんじゃないか。エロい女性、そうでない女性。良い女性と悪い女性とに。

堀越 「良い女性」として認められたくば、「悪い」のレッテルを貼られる要素は隠さなきゃいけない。それって、本人が隠してるって自覚してればまだいいですけど、無意識のうちに抑圧しちゃうと、その抑圧で、他人に対しても抑圧的に振る舞うことが出てきますから、負の連鎖になりませんか。

下戸山 そう。良い女性と悪い女性を完全に切り分けられるって思い込んでるとしたら、本当に間違いだし。

堀越 一人の女性の中に多様性があるということですよね。

下戸山 はい、ありますよね。でもそういったことを、「マーケティングですから」って切り捨てて、単純化してしまうと、何も見えなくなる。そのマーケティングに乗っ取ってダサピンクを作っている、っていうのがあるかな、とは思いますけど、私は。はい。

堀越 あ、そこにダサピンク繋がりますね!

つづく

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<一覧>

【1】「お母さん」よりも楽しそうな仕事に就きたかった/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里
【2】殴れないプリキュア、女のケア役割。/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里
【3】多様化していくバービーと、ピンクによる武装/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里
【4】ダサピンクマーケットの根底にあるのは<良い女><悪い女>の分断ではないか/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里
【5】王子様なんて要らない、ピンクの抑圧を受けない女の子たち。/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里

<同書の書評はこちら>
ピンク解放運動を追う 「女らしさ」に閉じ込められたピンクの歴史

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