インタビュー

王子様なんて要らない、ピンクの抑圧を受けない女の子たち。/『女の子は本当にピンクが好きなのか』堀越英美×柴田英里【5】

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堀越 バービーもまさにそうですよね。子供向けのアニメもね、やっぱり、二次元だから、非現実的ですよ。セーラームーンがなんであんなに当たったかというと、セーラー戦士が全員、細くてすらっとしてるからという分析もありますよね。中に一人くらいデブキャラいてもいいじゃないか、って大人は思っちゃうんですけど。

下戸山 でもデブキャラがいたとしても、そのデブキャラのファンになる女児はいるでしょうか。PC的な配慮で肥満体型のキャラを入れることに意味はあるのかな? 柴田さんの視点とは違うんですけど、もし肥満のセーラー戦士を加えるとしたらですね、描かれ方が脇役だったらまったく無意味だと思うんです。脇役として一人くらいそういうキャラがいてもいいじゃないか、じゃダメ。メインで一番強くてカッコいいキャラが一番体格がいい、っていう設定にしないと意味がない。

堀越 『秘密戦隊ゴレンジャー』だと、黄色(キレンジャー)ががっちり体型でしたよね。セーラームーンもそうしたらいいんじゃないか、みたいなことを言う人がいる。でも、それは違うんだと。

下戸山 だってゴレンジャーの黄色って、カレー大好きで心優しいキャラクターですよね? 太っていてもいいじゃない、それも個性だよ、ってメッセージを出したいのであれば、間抜けとか情けないとかをそのキャラに一切託しちゃダメだと思う。太っているキャラが一番強くてクールでかっこいい立場にいるような打ち出し方をしないと、絶対変わらない。

好きなピンクが見つかる時代

柴田 プリキュアで必ずしも女児がピンクキャラを好むわけじゃないという話をさっきしましたけど、主役=一番人気、という構図は成立しないですよね。私はセーラームーンではうさぎちゃんが嫌いで、ヴィーナス派でした。

下戸山 私もうさぎが嫌いでした。柴田さんは強気のキャラが好きってこと?

柴田 強気で自己中心的な感じの女の子キャラが好き。堀越さんは?

堀越 私の世代だとガンダムの話になっちゃうので、女の子キャラで誰が好きとかは……。『魔法の天使クリィミーマミ』だけは、かわいいなって思えましたけど。ようやく、やっと、かわいいと思えるアニメが来たな、という私にとってのターニングポイントがクリィミーマミだったように思います。だから、セーラームーンの話で盛り上がれる世代を「いいなぁ」と羨ましく見ていますよ。私が同年代の友人と『魔法少女ララベル』の話で盛り上がることなんて、ないですからね。

柴田 ララベル不人気問題(笑)。

堀越 不人気だったかどうかはわかんないですけど(笑)。その話で盛り上がったことはないですね。ララベル、あと、『キャンディ・キャンディ』も好きな人は好きだったかもしれないけど。クラスみんなで盛り上がる、ってほどでもなくて。今ほど女児向けの作品が充実していなかったんですよ。アニメ産業自体がまだまだだったというのもあるのかな。小学生がみんな見ているテレビといったら、ドリフかひょうきん族。

女児向け文化が成熟してきたのは、やはりセーラームーン以降だと思います。同世代の女子みんなが同じ話で盛り上がれるアニメって、そこが最初なんじゃないでしょうか。で、おそらくですけど、その世代くらいから多分、女の子のジェンダー観が少しずつ変わって来ているのかも。『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)を書かれた稲田豊史さんは40代ですが、「自分と同世代の女性たちと比べて、セーラームーン世代であるアラサー女性は明らかに違ってきている」という点を明らかにしたくてあの本を書いたそうなんですね。セーラームーン以降・以前で全然違う、って。

下戸山 何が違うんだろう? 男子も家庭科の授業を普通に受け、女子も技術の授業を普通に受ける中で育ったから、とか?

柴田 学校教育においてはパッと見、あからさまな男女差別がなかったように思いますね。

下戸山 抑圧の実感はなかった、少なくとも学生時代は。男子が優遇されるとか、逆に女子が特別扱いされるとかも、感じなかったんですよね。鈍かっただけかもしれませんが。

柴田 個人的には、「ピンク」の受け止め方を変えたのは、印刷技術の発展が大きいと思うんですよね。ピンクで競えるようになったんですよ。

堀越 というと?

柴田 ピンクって印刷で出すのがすごく難しい色なんですよ。印刷屋泣かせな色といわれます。LARMEの表紙でピンクを使うとき、編集長はもう何十回も印刷屋で色校を出したって。理想的なピンクを印刷で追い求められるようになったのは大きいことだと思いませんか? このことによって、「ダサくないピンク」をいろんな場所、様々な商品で目にすることができるわけですよ。

堀越 たしかに、そうですね。私の世代だと、ピンクって言うとダサいピンクしかなかったからピンクに距離を感じてる女性がたくさんいるけど。かわいいピンク、素敵なピンク、かっこいいピンク、実に何百通りもあると。

柴田 私の世代でも、やっぱり「ピンクは男子にバカにされる色」という価値観はありましたよ。でも、「好きなピンク」を持っていると、そのピンクで武装してやたらバカにしてくるムカつく男子に反撃することができるんです。ピンクで武装する女の子、これは決してごく少数の変わり者というわけではありません。Paul & JOEとかJILL STUARTのメイクアップアイテムなんて、大衆の女の子にばっちりウケて売れている。ああいうメイク道具って、ピンクの武装だと思います。

私自身は、「ピンクに抑圧されてきた」とか、ジェーン・スーさんみたいな「ピンクと和解せよ」という葛藤があるってことは全然知らなかった。

下戸山 和解も何もそもそも喧嘩してないよ、っていう?

柴田 そもそも喧嘩してないし。悪い歴史があるんだったら読み替えればいいじゃん、みたいな。

堀越 私はジェーン・スーさんと同世代なので、あのピンクのコラムには大変共感しました。世代的に『PINK HOUSE』がバカにされていたりして、ピンクを堂々と好む女性は痛々しいみたいなイメージが少なからずあったんですね。で、ちょっとピンクから距離を取りたいな、という自意識を持つ女性たちが大勢いた世代じゃないかと思います。

下戸山 なるほど、そういうことですか。

堀越 そうやってずっとピンクと距離を置いて生きてきたんだけれど、自分が女児を産んで、子供がピンクを好むようになっちゃったことで、私はこの色に向き合おうと思ったんですよね。

柴田 私や下戸山さんの世代(アラサー)と、堀越さんジェーン・スーさんの世代(アラフォー)って、およそ10歳違う。もちろん世代によるものだけではないと思うんですが、ピンクから受け取る意味が大きく異なっているという点は興味深いですね。

下戸山 私は今はピンクの服も小物もあんまり持っていないんですけど、中高生の時は甘い服やピンクの小物が大好きでした。思い出すとかなり恥ずかしいのですが、ライトなロリータというか。MILKの服も好きで集めて。当時スカートしか履きたくなかったけど、高校一年の遠足で「ズボン履いて来い」って指定があったからピンク色のスキニーパンツを買って、親に「そんなバカみたいなズボンやめな!」って叱られました。

柴田 MILKの赤やピンクやフリルはドラァグですよね。

下戸山 モテないタイプの「女の子らしい」ですよね。

柴田 モテないやつ。攻撃的なピンク。パンクですもんね。MILKというブランド名自体が、映画『時計じかけのオレンジ』でドラッグ入りのミルクを飲むところから来ている。

下戸山 あの頃、90年代後半から世紀末~ミレニアムって時代の原宿ファッションすごくなかったですか? 田舎から眺めていてスゴい文化だなと思って。X-girlとかストリート系、シンプルなやつも流行ったけど、ゴッテゴテしたサイバー系とかあったじゃないですか。

堀越 増田セバスチャンみたいな?

下戸山 はい、「6%DOKIDOKI」もその頃からありました。今でいうきゃりーぱみゅぱみゅのアートディレクションみたいな格好で原宿を歩く男女がいて、10代女の子でモヒカンにして青い髪で、なんかチューブとかゴムなわとびを体に巻いてるんですよ。それがオシャレ、みたいな。

堀越 知らない、全然知らない世界(笑)。

柴田 ストリートスナップ雑誌いくつかありましたけど「FRUITS」とかすごかったですよね。卓矢エンジェルのファン(エンジェラ)も凄まじかった、DIY精神が。自分で古い着物を切り刻んで服にしたり。ボディピアスとかもやたらたくさん開けててね。ヤンキーじゃないピアス。あと、ビッチじゃない網タイツ。

堀越 そういう世代なんですね。私の世代だと、agnes b.などのシンプルなフレンチカジュアルが人気だったんです。渋谷系全盛期だったのでボーダーとか。もちろん、ピンクやフリフリを好む人たちはいましたけど、そういうファッションはプリコン(プリティコンサバティブ)と呼ばれていて、私にとってはシャネラーと同じくらい遠いものでした。それもあってピンクからは距離があったというか。うん、聞けば聞くほど、この「ピンク問題」は世代的な問題も大きく関わってくるのかもしれない。クィアとしてのピンクを私が入れられなかったのは、そういうことなのかも。

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