――どんなコに感情移入しますか。
「う~ん。好きなタイプがあるというより、要は、その人がどんなふうに育ってきたのかが知りたい、という感じかな。その人のことがわからないと、僕はつまらない。プレイに深みが出ないんです」
――女の子のどんな話を聞くのが好きですか?
「やっぱり、彼女たちの家庭環境の話。バレリーナとか、芸能界を目指しているしっかりした家庭出身のお嬢様とか、いろいろな女の子がいるんですよ。お父さんは医者で、お母さんは薬剤師、ってコとか。芸能人よりもレベルが高いルックスのコもいましたね。某国立女子大学の学生です、とか。どうしてデリで働いてるんだろう? みたいなコも多いです。働いている理由やきっかけは絶対に聞かないですけどね」
――あ、そうなんですか。
「そこは聞いちゃいけない気がしていて。彼女たち、本当にいい家庭に育ってるんですよね。『そんなにいい家庭に生まれて、でもなんで高級デリヘルでわざわざ働いてるのかな』と単純に不思議に思います。だけどそこを聞いたら、彼女たちは絶対に機嫌を損ねると思う。だから聞かないんです。次も指名したいなと思うくらいの女の子だったら、本当はいろいろと聞いてみたい。でもみんな店には残らないで、さっさと消えることが多いから。特にリピートしたいと僕が思うコほど、辞めるのが早い」
――じゃあ、デリを始めたきっかけを聞いたコは、今までひとりもいないんですね。
「はい。プレイを楽しむには、相手を盛り上げないとダメです。怒らせたり、落ち込ませたりすると、相手も良いサービスをしてくれなくなりますから」
――赤木さん、謙虚ですよね。
「サービスしてもらう立場としては当然ですよ。相手の力を、僕は最大限に引き出したいので。これは経営者の視点かもしれないですね。相手の能力を1番大きく引き出すためには、こちら側も最大限のサービスを行う必要があるんです。お金を払ったから何でもしていいや、というのは間違いです」
――うわぁ。金頼みでエラそうにするお客に聞かせたい……。
「そういえば、僕が体験した高級デリでは、リストカットとか、家庭内不和みたいなコには会ったことがないし、話を聞いたこともないです。みんな普通以上にいい家庭で育っていましたね」
――彼女たちが、話を盛っている可能性は?
「それはあるかもしれないし、嘘か本当かどうかはわからない。ただ、僕は最初の30分から40分はずっとおしゃべりをします。だから相手のことをかなり詳しく話を聞いていくので、嘘であればもっとしらじらしくなると思う。そういう違和感を覚えたことはないですね」
――30分はトークタイム! 神さまのような良客です。
「40分も話していると、そのうち向こうが焦りだして、『そろそろシャワーに行きます?』とか聞いてくる。でも僕は、よっぽど話が面白いときは、話だけで延長します。そうすると30分で2万5千円プラスかな。だから1回の利用で10万を超えるときがたま~にありますね」
――ちなみに90分で12万円のデリヘル嬢さんは、どんなコだったんですか?
「18歳になったばかりで、東北から大学進学のために上京してきたコでした。僕、4月5日に会ってるんですよ。大学1年生のまさに成りたてですよね。O倉Y子をうんと若くしたような感じで、そのコもアイドル志望だったなぁ。よく考えると、本番で摘発された本デリは、芸能事務所と繋がっていたのかも」
――風俗を経営している芸能プロがあるとは聞きますね。彼女から、悲惨な感じはしませんでした?
「何をするのか、やることは理解して来ている様子でしたよ。でも『わたし、だまされているのかなぁ……』ってつぶやいてました。そのコもすぐにいなくなりましたね。そのあとに警察が入り、お店はつぶれました」
――女の子たち、元気でやってるといいですね……。ところで赤木さんは、性感染症の経験は?
「無いです。調べたわけじゃないけど。でも本番するときは常にゴム有りだったし、高級店だから大丈夫だと思いますけどねぇ」
――うーん。病原体や細菌には、高級か大衆かどうかとか、人の性格の良さは一切関係がないですから。フェラや傷口から病気が感染することもあるので、どうかお気をつけて。
「ふーん、気をつけたほうがいいですかね。僕はね、風俗は『経験価値』だと思ってるんです。ふだん味わえないことを味わう、心理的な価値があると思っています。まぁだけど、病気は経験しないに越したことはないでしょうね」
性欲の発散よりも、コミュニケーションを求めて「高級デリ」をリピートする赤木さん。性風俗では、性的なサービスだけでなく、人の存在そのものや、対話を求めて利用するお客さんも意外と多いのだ。
「今度、僕のウェブ事業関連の仲間を紹介しますよ。彼は僕とは全然違うタイプの風俗客で、おもしろいかも(笑)。彼は既婚者だし、ハイスペックな女のコより、どちらかといえばメンヘラっぽいコが好きみたいだから。いろいろ聞いてみるといいかも」
――ぜひ紹介してください。『名前のない男たち』の数だけ、風俗に求めるものがあると思っています。
「じゃあまた連絡します」
そう言ってほほえむと、赤木さんはカラオケ店を背にし、駅に続く明るい繁華街へと溶け込んでいった。

紳士的な受け答えをしてくれた赤木さん