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オーガニック教や経皮毒信者など、女性の極端な〈自然派〉は、妊娠出産がきっかけになるケースが多いものです。「砂糖業界に切り込む!」という勇ましいふれこみでこの夏公開されているドキュメンタリー映画『シュガー・ブルース 家族で砂糖をやめたわけ』は、まさにその典型例でしょう。
本作のアンドレア・ツルコヴァー監督は、第3子の妊娠時に〈妊娠糖尿病〉と診断されたことをきっかけに、砂糖に対して疑問を持ち始めます。食事の度に血糖値を図り、砂糖を禁止される不便な生活の中で〈砂糖叩き〉開始の、ゴングがカーン。
パンフレットのあらすじにはこうあります。
「キッチンからはじまった彼女の探求は、砂糖の秘密と真実を次々と明らかにしていきます。(中略)やがて、多国籍企業と医療関係者、政治家らが一体となって利益を生み出す、強大な砂糖業界の闇に突き当たります」
最後まで拝見しましたが、〈真実〉も〈闇〉も正直、謎~。闇といっても、欧州食品安全企業の専門家59%が、業界となんらからの関係を持っていたというだけで、そりゃ食品関係の専門家なら関係があってもおかしくないのでは。健康への影響の研究データを改ざんとか、事故もみ消しとかならともかく〈関わりがある〉というだけで陰謀! 癒着! と騒ぐのはちょっと短絡的。
砂糖業界=シュガーマフィアと毒づく
さまざまな専門家のコメントをパッチワークのようにつなげて「砂糖は悪!」としたいようですが、根拠となるデータやなぜそのような健康被害に至るのかというしくみはざっくりとしか語られないため、何が何だかよく分からないという印象です。作中に登場するニューヨーク市立大学助教授は「砂糖はADHDや統合失調症など脳疾患のリスクをもたらす」と断言しちゃっていますが、ADHDって現在は遺伝的要素が大きいという説が有力で、砂糖が原因というのはごく一部のお説では~。医師がひとりで語っているだけの素材で、「そんな事実があるなんて……怖い!」ってなる人は、世界でどれだけいるのでしょう。
そして砂糖叩きは取材のみならず草の根運動へと発展し、企業の前や路上、お菓子メーカーのイベントで「砂糖は人を殺せる」と書いたプラカードをかかげて仁王立ちです。子どもたちに手伝わせながら、スーパーの売り場に砂糖撲滅シールを貼りまくるのは、完全にいきすぎた迷惑行為。その姿は何だか、サンデー・ジャポンで取り上げられるような〈迷惑おばさん〉みたい。妊娠糖尿病に悩み「そもそも祖母も糖尿だったわ……」と語る監督は、自分の不運を何が何でも誰かのせいにしたいのかもしれません。
1名だけ申し訳程度に、反対意見の人物が登場していました。大手食品メーカーの商品開発に携わり、ヒットする味を研究する市場研究家です。「消費者が食べる責任を問うのはお門違い。食品会社は犯罪組織ではない」とコメントしています。砂糖業界を〈シュガーマフィア〉と呼んで鼻息荒く走り回る監督に対し、心底呆れたといった空気を醸し出しておりましたが、私も同意見です。