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男が結婚を決める理由は「授かり婚」か「彼女の両親が怖くて」

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結婚を決めない44歳・福山。(『an・an2013年 10/2号』マガジンハウス)

 妊娠発覚を機に結婚をする「授かり婚」をアラサー女子にオススメしていることで、すでにネット上では炎上案件となっている『an・an』(マガジンハウス)の結婚特集【きっかけは何? 男が結婚を決める理由】。既婚男子として紙面に一通り目を通しましたら、なかなか面白い記事もありました(くだんの炎上案件はひとまず置いておきましょう)。そのなかでも「男性200人に徹底調査しました! 僕が結婚を決意した理由はコレです」という記事で紹介されている、様々な職業のアラサー男子20人が語る「結婚を決意した理由」の実例が良い。

 この手の実例集って過剰にドラマティックかつ、ロマンティックなエピソードばかりじゃないですか。今回の記事にも「学生時代の失恋を忘れさせてくれた彼女と絶対結婚したいと思った」とか「難病にかかった彼女を応援しながら、結婚へ……」とか「他人のノロケ話をわざわざ読まされても「へえ……」としか思えないものもあります。しかし、そんななか「彼女の両親に同棲を反対されたのがきっかけで結婚」、「同棲するなら結婚してほしいと彼女の両親にお願いされた」という実例が含まれている。こういうエピソードのインパクトは雑誌的には地味な内容でしょうけれど、「彼女の両親に言われたから」程度で結婚を決めた男子の消極性を「リアリティがあって良い」と思ったのです。

お義父さんの圧迫面接は効果的

 実は、このエピソードで自分が結婚したときのことを思い出しもしました。妻と同棲をはじめる前に「一度挨拶に来い」ということで、私が妻の両親と初めて会ったときのことです。場所は横浜のイタリアンのお店。席につくなり私は義父から「同棲、じゃなくて結婚するんだよね?」と怖い感じで問いつめられ、「ご両親に挨拶をちゃんとして、良い印象を与えれば今日のゴールは達成」ぐらいのつもりでお店にいったのに「娘さんを僕にください!」的なことを伝えざるを得ない状態に。ひとまず、結婚する旨をマジメな感じで伝えることでその場は丸く収まったかと思いきや、その数分後「結婚式はいつやるんだ?」という話に。

 結婚式の準備って面倒だし、お金もかかりますし、二人ともそういうイベントごとが好きじゃなかったので「いや、最近はしない人も増えてますし、結婚式はやらないかなあ」などとお茶を濁していたところ、義父から「結婚を認めるのにはやぶさかではないが、結婚をするならば親戚などにもお伝えするのが筋というものだろう。その点についてはどう考えているのかね?」と遠回しに「結婚式をしろ」という圧力が。「結婚式をする」と約束しないと帰れないシチュエーションに陥った私は、止むなく「そうですね、そういうのも大事ですよね。でも、今はあまりお金がないので、二人でお金を貯めたら結婚式をします」と答えざるを得なかったのでした。

 「二人の意志が一番大事、親なんかに介入されたくない!」と思う方もいらっしゃるとは思いますが、結婚しない理由はあっても、結婚する積極的な理由はなかなか見つからないんですよね。なんとなく居心地が良いから長いこと付き合ってるけど、結婚は重いよなあ……と尻込みしてしまう男性も多いハズ。ただ、彼女の両親に呼び出され「君たち、何年付き合ってるんだ? そろそろ結婚しないのか?」なんて問われることも、立派な結婚に踏み切るきっかけになると思うんですよね。別に「授かり婚」を狙わなくても、結婚へのきっかけっていくらでも作れるでしょう、と思います。さすがに「授かり婚」を狙っていく、というのはリスクが多すぎるのでは……。

 問題の記事「アラサーには特にオススメ! プロポーズから出産まで一気に叶える! “授かり婚”はこんなにスバラシイ!」では、授かり婚の5つのメリットと、成功させる5つのコツが紹介されています。授かり婚では「結婚の覚悟が即できる!」、「周囲に祝福してもらいやすい」、「結婚と出産、Wのオメデタ」、「出産までの時間がスピーディ!」、「すぐに家族の絆が生まれる」、これらがメリットだそうですが、容易にデメリットも思い浮かんでしまい読んでいてツラいです。

 妊娠発覚、それでも男性側に結婚の覚悟ができなかったら……これだけで、すごい修羅場が予想されますし、「出産までの時間がスピーディ」にしても、夫婦生活をスタートして間もなく「子供がいる生活」になってしまうのは良いのかな……? と思います。会社の同僚である50代の授かり婚男性(もちろん、この方が結婚した当時にそんな言葉はありませんが)が「ウチの女房は、20代前半からずっと『お母さん』。子供が成人してようやく最近自由になったんだ」と言っていたのを思い出しますが、男女問わず、子供が生まれたら束縛されるものがあるじゃないですか。「もう遊び尽くした」というアラサー女性や長いこと同棲していたというカップルなら「子供のいない夫婦生活」を省略しても問題ないのでしょうか。

 授かり婚夫婦の3組に取材している記事も、なかなか考えさせられるものがあります。「授かり婚を経験して、今こんなに幸せ」と見出しがつけられているものの、妊娠を伝えられた時の夫のリアクションは2/3が「え、マジで……?」とビックリしているんですね。「あんた、ゴムつけないでセックスしてたんでしょ? そりゃ、彼女が妊娠してもおかしくないだろ。ビックリするほうがおかしくない……?」とツッコミたくなってくる。妊娠発覚後、夫側が2週間もどうするか悩み、その間、妻側が「たとえシングルマザーになっても産みたい」という決意までしていた、というカップルの例なんか痛々しいです。夫婦喧嘩の度に、旦那さんはこの2週間のことを持ち出されて非難されそう。

 この記事、ネット上では「アラサー女性が妊娠を理由に結婚を迫る」イメージで理解されてしまい、ミソジニー性向のある男性から非難の的になっているようですが、実際、そんな女性が現実に存在するか自体に疑問が涌いてきます(記事にでてくるカップルもたまたま妊娠しちゃったという人たちで、狙っていたわけではない)。未婚のアラサー女性を無駄に焦らせたり、変な印象をつけたりするだけで、まるで「女の敵は女性誌」みたいな感じにも読めてしまいました。

 ■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。

カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra