カンバーバッチにまつわる謎
今年の夏、私はツイッターで「ベネディクト・カンバーバッチ」なるイギリスの俳優さんの名前と写真を何度も目にしました。カンバーバッチさんは、悪魔的なカッコよさをもった俳優さんであり、『SHERLOCK(以下、シャーロック)』というイギリスBBCドラマに主演している、ということもツイッター経由で知りました。けれど、カンバーバッチさんの出演作品を見たことのない私は、彼の写真を見ても、いまいちカッコよさがわからなかった。なので、逆に興味をひかれました。
わかりやすいカッコよさより、ちょっとわかりにくいカッコよさのほうが中毒性があることを知っているからです。
また、これはあくまでも主観ですが、カンバーバッチさんの素晴らしさについて熱く語っている人々の多くは、普段はクールで、決して熱くならなさそうな人が多いような気がしたのも、興味をひかれた一因でした。
カンバーバッチ・ファンの皆さんは、普段のツイートからは想像もできない程のハイテンションで彼の魅力について熱っぽく語っており、それらのツイートからは、理性を失った多幸感がただよっていました。カンバーバッチさんには、普段クールな人を、ぽ~っとしたお花畑に誘う「何か」が、あるに違いない、と確信しました。
これほどまでに、人々を狂わす彼の魅力とはどのようなものなのか知りたい。そう思い、ドラマ『シャーロック』をDVDで拝見しました。
『シャーロック』は、おなじみコナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』を基にイギリスBBCで2010年に制作されたドラマです。日本では、2011年8月にNHK BSプレミアムでシリーズ1を放映後、翌年にシーズン2も放映されました。そして今年、日本でもシリーズ3が放映予定ということです。
原作ファンをも魅了するドラマ『シャーロック』
カンバーバッチさんの魅力の謎に迫りたくて見たドラマでしたが、視聴早々、オープニングが流れる段階で、私は『シャーロック』という作品自体に、心を持っていかれてしまったことを告白せねばなりません。
実はワタクシ、原作の『シャーロック・ホームズ』シリーズのファンでありまして……。ドラマの『シャーロック』では何しろ、番組冒頭のタイトルバックから「原作:アーサー・コナン・ドイル卿(Sir Arthur Conan Doyle)」と書かれたクレジットの文字が出るのですよ! 私は、この文字だけで、もう背筋がゾワゾワするような興奮を覚えましたし、オタクと呼んでいただいても結構です。
さらに、DVD1巻の第1話(元はパイロット版)のタイトル名が、『ピンク色の研究』!これは『シャーロック・ホームズ』の最も有名な短編のひとつで、誰でもタイトルくらいは聞いたことがある『緋色の研究』からの引用。これにも、私は大喜びだったのはもちろんのこと、原作ファンではないけどタイトルならご存知という方も、「にやり」くらいはなさるのではないでしょうか。
カンバーバッチ・カッコいい・ポイント
オープニングからジョン・ワトソン(マーティン・フリーマン)のシーンへと続き、いよいよドラマではカンバーバッチさん演じるシャーロックが登場するシーンになりました。そのお姿は……ツイッターでの評判どおり、ひどくカッコいいものでした。彼の登場後約1秒で、私のカンバーバッチさんに対する認識は、「どこがカッコいいのか分らない」というものから「めっちゃカッコいい人やん!」へと見事に変貌を遂げたたことを、ご報告いたします。
カンバーバッチ・カッコいい・ポイントとしてまず、肉体が、カッコいい。背が高いけれど顔が小さくて、一見やせ型だけれど、よく見るとがっしりしていて、ドン!とぶつかっても、きっちり受け止めてもらえそう。そして、首。ああ、彼のあの、すんなりと長く、美しいけれども、力強い、首! カンバーバッチさんの首から肩へのきりっとして、なおかつ、なだらかに流れるラインは、胸が痛くなるほど優美です。黒いロングコートでもワイシャツでも、何を着ても似合う。
そして、首が長くてダンサーのように優美なそんな肉体から繰り出される動きが、カッコいい。カンバーバッチさんは姿勢が異様に良く、階段を下りるときも、背筋をピンと伸ばしたまま、まったく上体をぶれさせずに、降りてゆくのです。きれいです。
話し方が、カッコいい。青白い顔色、無表情のまま、早口でしゃべりまくります。
笑顔が、カッコいい。シャーロックを演じている時、カンバーバッチさんはかなり意地悪なことばかり次々と言うのですが、その後ニコッ、と笑うのです。片頬でニッ、と笑ったりも、する。こんな笑顔をされた日には、ちょっとばかり意地悪を言われても、へなへな……と許せてしまいそうです。
そして、演技が、カッコいい。
連続殺人の捜査が楽しみでうきうきするカンバーバッチ版シャーロックは、激しいラジオ体操のように腕をぐるんぐるん振り回したり、手をぱん! と叩いたりして興奮を表現するのですが、その動きが舞台的で、素晴らしい。こういうのを「キレキレの動き」というのだな。さぞかし、ステージでも映えることでしょう。
おお、カンバーバッチさん演じるシャーロックが、手を顔の前で合わせたぞ! これは、原作にも出てくるシャーロック・ホームズが考えごとをするときにする定番ポーズですが、カンバーバッチさんがやると、このなんでもないポーズもひどく美しいものになります。
視線の使い方も魅力的です。きれいな目がくるくると動いて、効果的に視線の先の先に存在するけれど画面には映らない人物や考えごとを示唆しているのです。画面に見えないものが、カンバーバッチさんの視線によって、見えるような気がしてきます。
1 2