連載

萌えとポリティカルコレクトネス、或は、欲望の表象の問題

【この記事のキーワード】

 署名文には、

“17歳という未成年の設定でありながら、胸や太ももなどの表現に顕著な性的誇張表現がなされており、さらにその意図を裏付けるように、彼女のプロフィールには、身長体重が明記され、「ボーイフレンド募集中」と書かれています。”
“市を潤すためならば、女性を性的なイメージとして搾取し、それを広報に使っても良いというメッセージを発信していることに他なりません”
“行政が、未成年の女性を性的なものとして表現し、市の広報のための公認キャラクターとして利用し、市役所などの多くの公共の場所で公開していることは問題である”
“志摩市の問題だけでなく、現在、日本中に蔓延している女性蔑視や、未成年の性の商品化といった風潮を追認するものと考えます。”

などとありますが、署名本文だけでも、所々に誇張があります。

 碧志摩メグの大きな胸や太ももなどを、性的なものとして解釈することはできますが、それを言ってしまえば、どのような身体表象であっても性的なものとして解釈することは可能であり、解釈しないことも可能です。確かに、市町村公認のキャラクターであること、役所などのパブリックな場所で提示されるものとしてふさわしいかどうか、差別的な表現がないか、議論されることは必要です。しかし碧志摩メグの表象や、プロフィールに身長体重の情報があることや、「ボーイフレンド募集中」と書かれていることが、直ちに「女性を性的なイメージとして搾取すること」や、「未成年の女性を性的なものとして表現すること」になるか否かは、断言できないものであると思います。そしてこのキャラクターが、「日本中に蔓延している女性蔑視」や「未成年の性の商品化」といった現実社会で改善すべき問題と地続きであるという見方も、萌えの表象を一面的に解釈したものではないでしょうか。

 明日少女隊がホームページ上で掲げたステイトメントでは、未成年女性キャラクターの「ボーイフレンド募集中」というプロフィールは、「性的に手に入る可能性のある存在として描かれること」「女性の性的モノ化」であると読み解いていますが、女性キャラクターの「ボーイフレンド募集中」というプロフィールそのものを「女性の性的モノ化」であると解釈することには、大きな飛躍があります。恋愛や性愛には、所々他者を所有する・他者をモノ化する側面があるとはいえ、それは女性だけがモノ化されるわけではありません。性的搾取ではなく、当人の意志による性的モノ化も現実にはあります。「性的モノ化」や「性的搾取」を、結婚制度に対する異議申し立てとしてするならまだしも、行政公認のキャラクターとはいえ、女性キャラクターの「ボーイフレンド募集中」というプロフィールに対して言及することは整合性がとれているのかどうか。過剰になってはいまいか、という慎重さが欠けています。

 ここには、署名活動という、多くの人の賛同を集めることを目的とした時に、人々の“怒り”や“悲しみ”の共感を運動のエネルギーにするという意図が透けて見えます。

 抑圧されていること、不当な扱いを受けることに対して“怒ること”、異議申し立てをすることは、基本的人権に基づく当然の権利ではありますが、何かに異議申し立てをする時に、共感を運動のエネルギーにするためとはいえ、誇張した表現や、慎重さに欠く見解によって、ここでいうオタクのような、別の誰かの欲望を蔑視しながら人々の怒りを先導するということは、「別の誰かへの差別意識によって連帯し、ある差別を解消するためのエネルギーにすること」に他なりません。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」