連載

サークルクラッシャー列伝 その1~『サユリ1号』とバカで単細胞な男たち

【この記事のキーワード】

誰かが大切にしているものを壊す遊び

大橋ユキが狙いを定めるのは、こうしたバカで単細胞な男たちだ。同作に出てくる女性キャラクターによると、大橋ユキの最も厄介な点は、「憎たらしい」と大っぴらに批判できないところにあるという。大橋ユキの悪口を言おうものなら、「女の嫉妬」「ひがみ」とレッテルを貼られる。さらには味方になってくれるはずの同性も、自身のプライドを守るために“大橋ユキを肯定できる寛容な私アピール”に必死になり、援護射撃をしてくれない。

大橋ユキは付属校からの進学組であり、もともとの友人は遊び慣れたイケてる学生ばかり。しかし、恋愛に成熟した集団は、彼女の標的にはならない。もてあそびがいがないからだ。彼女は、“格下”を相手に、破壊的な遊びに戯れ続けている。なぜ、そんなことに情熱を注ぐのかというと、一口で言ってしまえば“誰かが大切にしているものを壊すため”である。

印象的な場面がある。

大橋ユキが崩壊させたサークルの部室に、「連絡ノート」が落ちている。そこには、「岡田丸かじり事件、再びか!?」「スクープ アヤカちん髪を切る!」といった、他人が読んでも面白くもなんともない言葉が並んでいる。

大学生活なんて、だいたいそんなものだ。偶然に出会ったメンバーが、その出会いを“奇跡”だと信じ込みながら4年間を過ごす。客観的に見れば奇跡でもなんでもない、どこの大学でも量産されているような平凡なメンバーとの平凡な出会いを奇跡として有り難がり、思い出を築いていく。それは、決して悪いことではない。ほとんどの人間は、そうした平凡を積み重ねて人生を終えていくのだ。

しかし、大橋ユキが見たいのは、もっと「純度の高いモノ」である。サークルの同学年の男ほぼ全員と彼女が肉体関係を持っていたことを知って問い詰める女子メンバーに対し、大橋ユキは「これはあくまでも、あたしと男の子たちとの問題なんです」と言い放つ。

奇跡なんて、いくらでも塗り替えられる。“男の子たち”にとっては、大橋ユキとの出会いこそが“奇跡”なのであり、他のものは偶然そこにあるだけの背景になり下がる。たったそれだけのことを証明するために、彼女は突然サークルに現れて、クラッシュさせていくのだ。誰かの大切な“奇跡”を否定するだけのために。そして、“自分だけの奇跡”を信じた“男の子たち”は、現実に再起不能になるまで打ちのめされ、サークルは崩壊していく。

大橋ユキの本当の恐ろしさ

さて、大橋ユキがサークルクラッシャーになってしまった原因はというと、いまいち判然としないものがある。彼女は親の仕事の関係で幼い頃から転校を繰り返しており、自身を母親が育てる植物と同じだと思っていたようだ。転居が多いため、鉢植えでしか育てられない植物。狭い空間の中、必死に根を張ろうとする苦しげな姿に、彼女は自身の境遇を重ねていた。深く地面に根を張るような生き方を、どこかで諦めてしまったのかもしれない。

……と、ここまで読んで、憤慨した人も多いはずである。「もっと大変な境遇で育った子どもは、いくらでもいる。それくらいのことで被害者ヅラをして、人様に迷惑を掛けるなんて許せない」と。そう思った貴女は、残念ながらすでに大橋ユキの術中にハマっている。

転校を繰り返していた小学生時代の回想で、大橋ユキを妬んだ女子たちが男子に詰め寄るシーンがある。女子たちは、「あの子は性格が悪い」と告げ口し、男子に同意を求める。あまりの剣幕に、男子は少したじろいでいる。そんな様子を物影から見て、彼女はこう思う。

あーあー
そんなの逆効果なのになぁ。
男のコは女のコがいがみ合っている場面が苦手なの。
そういう怖い顔みると逃げ出したくなるの。
…自分がニコニコかわいく在れば、それでいいのに… 

いつだって、被害者ヅラを忘れずに♡

男の筆者から見て、彼女の言うことには一理あるような気がする。怒っている女のコは怖い。しかし、そう思った時点で、筆者自身も彼女の術中にハマったバカな男の一人なのだ。

サークルクラッシャーは、フィクションの世界だけの存在ではない。実在するさまざまな集団や組織に現れては、複数のメンバーを巻き込んだ恋沙汰で問題を引き起こしている。次回は、現実の世界に出没したサークルクラッシャーたちのエピソードをお届けしよう。
(宮崎智之)

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宮崎智之

東京都出身、1982年3月生まれ。フリーライター。連載「『ロス婚』漂流記~なぜ結婚に夢も希望も持てないのか?」、連載「あなたを悩ます『めんどい人々』解析ファイル」(以上、ダイヤモンド・オンライン)、「東大卒の女子(28歳)が承認欲求を満たすために、ライブチャットで服を脱ぐまで」(Yahoo個人)など、男女の生態を暴く記事を得意としている。書籍の編集、構成も多数あり。

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