場所は北関東のさびれたかつてのニュータウン。バブル時代一斉に建てられた分譲住宅は老朽化し、ランドマークである噴水にはもう何年も水が流れず、本屋もCDショップもついに一軒もできないまま衰退していった、けれども道路だけはすごく立派。そんな街よ。
そんな街のとある民家の一室で、転げまわって苦しんでいる20代後半の女性がいたの。彼女はかれこれ2時間ほど、「うーんうーん」と唸り声を上げながらしきりに握りこぶしで腰の辺りをたたいては部屋の床に寝たり、椅子に座ったり、なんとか楽になれる姿勢を探しているようだった。眉間なんかくっきり赤い跡が残るまでに顔をゆがめてるのよ。まだ一応20代なのにホウレイ線もぐっさり刻まれてるし。彼女がなにか痛みに耐えていることは、恐らく誰が見ても明らかだったと思うわ。
彼女は次にお腹を押さえつつゆっくり立ち上がり「痛、いだだだだだ」とうめきながら部屋を出てトイレに行こうとしたの。すると後ろから太った年配の女性がドドッと走り寄り、彼女を突き飛ばして先にトイレを占領した。年配の女性は声を荒げてこういい放ったわ。
「邪魔だよ、夢子! あと、うめき声がうるさいんだよ!」
そう、痛みに苦しむ女性はうつ編でおなじみの極重(ごくしげ)夢子。彼女を突き飛ばした太った女性は彼女のお母さんなの。
子宮内膜症の妖精が語る「孤独」
……あらやだ、自己紹介が遅れたわね、わたしは子宮内膜症の妖精よ。膜子って呼んでね。
夢子は実は子宮内膜症で苦しんでいるんだけど、この時点ではそのことを知らないの。それでね、わたしはこれから、夢子と子宮内膜症の長~いつき合いついて語らせていただきたいの。
ちょっと風呂敷広げすぎなのはわかってるんだけど、わたしはこれから語る物語を、内膜症だけじゃなく、すべての女性疾患と戦う女性たちに捧げたいと思ってるのよ。女性疾患との戦いは、症状が苦しいのは当たり前なんだけど、周りに内緒にしたまま長い治療に耐えなきゃいけないという状況に置かれる人が多いから、孤独なのが最もツラい点のひとつよね。
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