社会人になるころには月のうち出血がないのが数日しかなく、立っても座っても横になっても痛みから逃れられなくなるまでになった夢子だけれども、そうなるまで何も手を打たなかったというわけじゃないの。一応、病院には行っていたのよ。
ただし、そもそも自分が子宮内膜症だなんて思ってなかったし、前回あげた症状のほかにもいろいろな症状があるから、どこを受診していいかわからなかったのよね。いつも微熱っぽいから内科を受診したり、呼吸をするだけでも痛むから呼吸器内科を受診したり、食欲がなくて腹部に痛みがあるから胃カメラの検査を受けたりしたのね。だけどどこも結果は「異常なし」なの。
やつれている夢子を見て点滴を打ってくれた内科医もいたわ。けど、点滴を打ってもらっても特に元気にもならないし楽にもならなかったの。こうなったらあと受診するべきはあそこしかない、と夢子は思ったわ。あそこ、そう、婦人科よ。
母親に植え付けられた「痛みへの罪悪感」
生理と連動して体調不良が起こるんだから、本来なら真っ先に婦人科に行ってもよさそうなものじゃない? 夢子がそうしなかったのは、やっぱりお母さまの影響じゃないかとわたしは思うわねぇ。昔からお母さまは生理痛に苦しんだり、経血量が多いことを相談する夢子を、
「みんなそうだから大丈夫なの!」
「あんたが大げさすぎるの!」
などの言葉で黙らせてきたわ。生理痛の重い夢子を見かねて親戚が鎮痛剤をくれたことがあったんだけど、それを見つけたお母さまが激怒して薬を捨ててしまったこともあったし。
いつしか夢子は、自分の生理痛や経血量について疑問に思うことにすら罪悪感をもつようになってしまった部分があったの。それにその当時夢子は実家で暮らしていたから、婦人科を受診したら母親に何をされるかわかったものじゃない、と怯えちゃったのね。実際、点滴を打ってもらったことを知ったお母さまは、それが医師の判断だったにも関わらず夢子をきつく叱責したもの。「すぐ薬に頼る」「我慢が足りない」とかいって。
どうしてお母さまがその程度のことで怒るのかですって? そんなこと、わたしにもわかりゃしないわ。人の心の内なんて下手すりゃ本人にすらわからないものでしょう。人のとった行動の奥に潜む理由を探ったところであまり意味はないと思いますねぇ、わたしは。夢子のお母さまはただそういう行動をとる人だ、ってことをまず受け入れてしまったほうがいいんじゃないかしら。
婦人科を受診すれば母親との軋轢は必ず起きるだろう。いままでいろんな科を受診してはその度に母親からの批判や嫌味に耐えなくてはいけなかったのだし、婦人科なら言葉の暴力はなおさら加速するだろうーーそのダメージを最小限にするためにも、診察から治療までにかかる時間を短縮するためにも、漫然と受診してはダメだと夢子は考えたの。
漫然と受診するのはもったいない
いろんな科を受診したり検査をしたおかげで、胃や肺や血液検査では異常がないとわかっていたわ。それまでの夢子の迷走も、決して無駄ではなかったのよ。だから婦人科では、お医者さんに病気を見つけてもらうのを期待するのではなく、「自分はこの病気ではないでしょうか?」とある程度決め打ちして受診しようと夢子は決意したの。
もちろん素人判断で自分の考えに固執するのはよくないと夢子は思ったわ。だから医師にまったく違う病名を告げられたとしても受け入れる心の準備もしたうえで、受診の時間を有効に使うために事前にいろいろ情報を集ようと決めたのよ。
そこでまず自分のような症状に該当する病名はないだろうか、と夢子はインターネットで情報収集したの。いまの人はいいわよねぇ、インターネットに病気の情報やいろいろ載っているのが見れるんだもの!
そんな情報収集の結果、自分の症状は「子宮内膜症」に一番似ていると夢子は思ったわ。それまでは子宮内膜症という病名すら夢子は聞いたことなかったけど、子宮内膜症について調べれば調べるほど、これは自分のことだ! という確信が強まっていったの。
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