診察に向けた準備を万端に整えた夢子は、婦人科の予約をいよいよ明日に控えていたわ。
なのに夢子ったら、夜更けまでずーっとパソコンにかじりついてるの。インターネットで必死に何か検索してるみたいだったけど、その様子が怖いのよ。PCに照らされてぼうっと浮かび上がる夢子の顔は鬼気迫ってるし、薄暗い部屋はシーンとしてマウスのカチカチ……という無機質な音しかしないの。ときおり夢子がつぶやく、
「ない、ない……」
という独り言が不気味だったわ。もう準備はいいから、明日に備えて今夜は早く寝なさ~い! と思いながらわたしも画面を覗いてみたのね。夢子が見ていたのは検索サイトだった。「婦人科」「内診」「エコー」「痛い」「どうすればいい?」などの検索ワードが打ち込まれていたわ。夢子はもう何時間も、検索で上がってきたいくつものサイトをしらみつぶしに見ていたの。
実はね、あとで詳しく説明するけど、夢子は過去に一度だけ婦人科で内診とエコー検査を受けたことがあるのよ。たしかに夢子、あのとき飛び上がって痛がっていたのよねぇ。飛び上がるって大げさな、とは思わないでね。本当にあの子ったら痛がって、金魚すくいの金魚みたいにビチビチ飛び上がってたの、物理的に。先生が内診しようとする度に「ギャッ!」「イダイ!」「ム、ムリっす!」とかいいながら。しかもそのせいでものすごく検査に時間をとられてしまったから、先生もたまったもんじゃなかったと思うわ。
こんなに痛いって、私がヘンなの?
きっと、そのときのことを気にしてるんだわねぇ。今回も内診とエコーにものすごく時間がかかって検査してもらえずに「ヨソに行ってください」なんてお医者さんにいわれたら困るもの。永遠に病気を治療できないわ。なんとかするっと内診とエコーを済ませる方法はないものか、夢子は必死に探してたのね。
ちなみにこれを読んでる姉妹のみなさんは心配しないでね。婦人科の検査って、普通はそんなに痛いもんじゃないから。現にネットにあがっている情報は、
「婦人科での内診やエコー検査は、違和感もあるし少し恥ずかしいかもしれないけれど、痛みはない」
というものばかりだったの。みんな特に痛みも不具合もなくさっと検査を済ませているから、ネットにはなかなか夢子が希望する情報は載ってないのよ。それで夢子は孤独感を募らせながら、何時間も検索を続けるはめになったの。
「やっぱりあんなに痛がる私がおかしいんだ~あんなに検査で時間がかかるダメな患者はきっと世界中で私だけなのよ~婦人科での検査が痛くてこなせないだなんて恥ずかしい……」
夢子はなんだか自分が女性としても人より劣っているような気がして、だんだん落ち込んでいったわ。
ネットで「これだ!」という情報を見つけたのは、数時間の懸命な検索の末だったわ。それは、どうしてもエコー用の棒を膣から挿入するのが痛い場合は、肛門からエコー検査を行うことも可能、という情報だったのよ。夢子は救われた思いだったわ。
「そんな裏技があったなんて! 早く教えてくれればいいのに! もし明日エコーが上手くできなかったら、この奥の手を使おう!」
それでようやく夢子はホッとして布団に入ったのよ。