どの仕事にも「あるある」はあるもので、ライターや編集者もその例に漏れない。原稿を催促する際には「進捗どうですか」とメールをするのはネットでもネタになるくらい定番だし、書籍が大ヒットした著者に各出版社がわらわらと群がるのもよく見る光景だ(だから「またこの人、本出したの?」という現象があるのです)。一年目のライターは基本的に来た仕事をすべて請けるべきで、編集者からの指示は文句を言わずにすべて従うもの。仕事を断ったり妙なこだわりを編集者に押し付けると「使い勝手が悪い」と評判が広まって依頼が減ってしまう。これもきっと「あるある」だろう(すべてこの通りではありません)。「メールは出来る限り早く返す」といったあらゆる業種でも同様の、あるいは似たような「あるある」だって存在しているもので、だから異業種同士でも「ああ、こういうことなんだろうな」と細かい説明をされなくてもだいたいは察することができたりする。
ただしこの「あるある」が通用しているのかどうかわからない業界もある。その最たる例が芸能界ではないか。
「あの芸能人は、芸能界のドンに嫌われて干された」
「あのタレントは裏で枕営業をしているらしい」
「事務所のバックに闇の組織がいる」
「レコード大賞を買収したグループがいる」
「テレビでは流されないスキャンダルの真相!」
……など、まことしやかに、しかし確かめようのない噂や「あるある」がネット上に流れていて、そうした情報を疑いつつ、少し期待しているのが私たち大衆なのではないだろうか。だからこそソースもわからないゴシップ記事が日々量産されているわけだ。
10月8日からスタートした『潜入捜査アイドル 刑事ダンス』(TV東京系)は、辰屋すみれ(中村蒼)が、芸能界の表沙汰に出来ない事件を取り締まる「警視庁特殊芸能課」に配属され、「刑事ダンス」というアイドルグループとして芸能界に潜入捜査するドラマであり、ここで描かれているのは、幾重にも重ねられた「メタ芸能界ドラマ」だ。
第一話では、ネットで好まれそうなネタを安易に楽曲に取り入れた斜陽気味の演歌歌手が、ネット放送中にマネージャーに自身を襲わせて注目されようとする姿が描かれる。暴力団関係者との付き合いが噂され芸能界を引退した某お笑い芸人が司会を務めていた法律相談バラエティをパロった番組に刑事ダンスが出演することになった第二回では、誰がやっても変わらない、定番のひな壇での振る舞いを揶揄。過去のスキャンダルによって失墜し、清純派から歯に衣着せぬ毒舌キャラとなった元お天気お姉さんの枕営業の噂を突き止めるために、刑事ダンスが「逃亡中」ならぬ「炎上中」という番組に潜入した第三回では、ネットでの炎上を皮肉を込めつつ、しかしそのような悪意すらも取り込んでいく芸能界の姿を描写している。
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