こんな具合で触診を終えたころ、夢子は泣くのをこらえるので精いっぱいだったわ。ナンシーはこういったの。
「OK、技師のベティが帰宅する前にエコーやってもらいましょう」
ナンシーは、「ベティ、この患者さんお願い」といいながら再び別の部屋に夢子をいざなったの。そこは暗くなった部屋で、ベティらしき年配の女性が座っていたわ。エコーの画面に照らされて眼鏡を光らせたベティは検査技師だったのね。
先ほどのクスコを内診でだいぶ抵抗する力が抜けたのか、ベティが凄腕だったのか、このエコーは割とすんなりといったわ。画面を見ながらナンシーとベティが、
「あ~ここが……」
「はは~ん、ここよ、ここ……」
と何やら話し合うのを夢子はぼーっと聞いていたわ。
卵巣に、数えきれないほどのおできが。
エコーが終わり、夢子はナンシーとともに、再び木製のデスクがある部屋に戻ったわ。そこで告げられたのはPCOs(多嚢胞性卵巣症候群・たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)」という病名だったの。夢子は卵巣の外側におできみたいなものができてるんですって。
「そのおできは何個あるのですか?」
夢子は収まらない震えを抑え込んでいたわ。
「うーん、数えきれないほど。でも心配することないわ。生理不順になりがちで、不妊になりやすくて、ちょくちょく不正出血があるけれど、悪性のものではないから」
ナンシーはさらにこう続けたわ。
「医師に電話で相談したけど、できることとしては、ピルを飲んで生理不順に対処することだけね」
夢子は不安になって聞いたの。
「ピルですか……。副作用はないですか?」
「副作用はほとんどないといわれている。生理の時期をコントロールできるし、乳がんの予防になるし、保険も効くわよ」
ピルを服用する、心の準備。
ピルの値段はそこまで高くはないようだったけど、それまで生きてきてピルは避妊に使うものだとばかり思っていた夢子はピルを治療薬として使うことに対する心の準備ができていなかったの。
「ちょっと検討します」ということにして夢子の初の婦人科受診は終わったの。その日の支払いはなく、後に自宅に請求書が送られて来たら支払う、とういシステムだったわ。
なんだか怖いイメージをもっていたピル服用はいったん保留して、夢子はそれからは中国系のクラスメイトがおすすめしてくれた漢方と鍼(はり)に通ったの。漢方と鍼は体全体の調子を整えてくれて肌もつやつやになったけれど、生理不順や不正出血は相変わらず続いたわ。月経にまつわる症状は改善することなく、夢子は学校を卒業し、日本に帰って社会人になったのよ。
(大和彩)