染矢 苦しみからお互い抜けるためにはどうしたらいいんでしょう。
二村 これもね、現実の被害者のかたの前では言ってはいけないことかもしれないんですけど……、ちょっと「適当に」かまえるということ。それを「対象を許す」っていう言葉にしてしまうと、我々男が「なんでも許してくれよ、多少は大目に見てくれよ」って話になって、それだと女性に対して菩薩になってくれと要求してることになるから、まずいんだけど……。
染矢 菩薩になりたくて苦しんでしまう女性はうじゃうじゃいます。
二村 「菩薩であるのが、いい女の条件」って女性が思ってしまうこと自体が危険だし、無理だよね。男が菩薩を求める心も危険だし。だから菩薩のような大きな力で許すんじゃなくて、自分の傷つきとか、苦しみには敏感であり、人の苦しみには敏感でありつつ、そのへんを適当に、いい塩梅に……。
ト沢 それを(被害を)受けた側に強要するのはな~って思っちゃうんですけど。あるものはあるんですよ。あるものをないことにされてるっていうのが1番問題なんですよね。まず、(被害や加害が)あるっていうのを認めないと……被害者もいるし、加害者もいるし、逆に被害者じゃない人もいるんですよね。被害者がいるってことは絶対に無視しちゃいけないことだと思ってて、そこを曖昧なまま、いい塩梅にっていうのは難しくて。
二村 被害者がいる、実際に被害があったことはちゃんと、うやむやにしないで、みんなで共有するってことだよね。加害をしてしまうとしたら、その人自身がいけないんじゃなくて、その行動がいけなくて、その行動をすることによって達成される目的を、別の行動で達成する方法を加害者自身が模索したほうがいい。
ト沢 加害者更生プログラムをやっている方いわく、「加害は行動のクセなんです」と。
二村 たとえば痴漢やレイプっていうのは性欲じゃないですよね。どう考えても性欲ではなくて、多くはストレスによって認知がゆがんで、その行為をしてしまう。だから許していいって話ではなく、許してはいかんのだけれども。
神田 毎回、性欲に持っていくから混乱するんだよね。で、解決しないの。
ト沢 あくまで行動を修正するっていうことが大事なんじゃないかなぁ。
二村 痴漢をやってしまう人自身が、自分が性欲に負けてやってるんじゃなく、じつは社会的なストレスで頭がおかしくなってやってしまっているっていうことを認めたくない、認められないから「俺様は悪い痴漢だぜ」とか、ひどいのになると「俺は性欲が強すぎて、男らしいぜ」「俺はピカレスク・ヒーローだぜ」って、まさにインチキ自己肯定している。最悪のヒロイズムなんですよ。ストーカーとかレイプ趣味の奴らも、そういう気持ちになっている。だけど実態は、惨めな被害者なんです。もちろん同情する必要はない、犯罪は犯罪として情状酌量せず罰した上で、それが起きてしまったことをみんなで共有する、男尊女卑思想とか日本の労働問題とか都市の満員電車問題を含めて、問題を共有するっていうこと。
ト沢 切り分けるんだけども、行為はよくないっていうことに徹底して切り分けた方がいいんじゃないかと思います。この人は加害者だ被害者だでパーソナリティに焦点を置くんじゃなくて、まずは行為を見つめなおすという。「自分が悪いんだ」じゃなくて、「自分のこの行動が悪いんだ」ってその人も思えるようになっていった方がいいと思うし。
二村 さっきも言ったけど、ツイッターで戦争状態みたいになってる、ものすごい攻撃性を持っちゃった被害者たちの被害者意識、それに反応して逆上する加害者(と目される人)たちの被害者意識……。被害者意識から敵を激烈に攻撃する人たちって、あれは当人は、あれで癒されてるんですか?
ト沢 ストレス解消だけど、癒されてるわけではないです。それをやることでどんどん傷ついてると思います。だから彼女たちが被害者だとまず認めてあげないと。
二村 そうなんだよね。ところが、男性側の加害者意識の罪悪感、その反転としての被害者意識もあって……、彼らは自分が加害者だって認められなくて、女は生意気だって言うわけでしょ? それじゃ対話になるわけがないですよね。だからといって「ポルノはすべてレイプよ、全面禁止よ!」って言われても……。
ト沢 性教育で……、染矢さんは性教育の現場に行かれてますけども、生殖の話なんですよね、学校でやるのって。
染矢 そうですね。よい出産を迎えるためには、っていう。で、特に小中学生は性行為を扱っちゃいけないとか、「性行為=非行」っていう認識だから抑圧しなければいけないって前提で教育方針が作られてるんですね。
ト沢 だから、「性暴力しちゃいけない!」と言っても、何はしてよくて、何をしちゃいけないんだか、子供には全然わからないと思うんですよ。だって、セックスって何なのかを学んでないから。学校で教えないぶんAVだったり、AVを見ない男の子たちはエロゲーだったりエロマンガだったりを見て学ぶ。それは現実のセックスとは全然違うものなのに。だから必要なのは、実際のセックスでも恋愛でもそうですけど、テンプレートに沿わなくていいということ、いろんな中間の教育だったり語りが必要だと思うんですよね。
神田 作っておいて言うのはなんですけど、AVなんか頼ってもわかるわけがない。
二村 ほんっと、そうです!
神田 かつて性の営みのやり方を伝授していた青年団みたいなものも今はなかったり。誰も教えてくれない中で、どうしていったらいいのかというと、やっぱり、わからない者同士が何か別の気持ちで結びついて探っていくしかないんですよ。最近のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、あれはもともと女性が読むマンガ雑誌の連載なんですね、で、その放送を見たらすごく面白くて。全く何も(恋愛やセックスを)できない男と女が、気持ちでジリジリしてるのが面白くて、録画したのを何回も見てるんですけど、結局そこにいくしかないのかなぁって。本当にクサイ話なんですけど、心があって、相手に何をしてあげたいの? 何を受け取りたいの? っていうこと。アダルトビデオの制作側である私たちとしても、そういうものをこれから作っていかなきゃいけないのかもしれない。
二村 教育機関だけに頼らない、市井の、現実的な性教育が世の中には必要だっていうことですよね。
ト沢 色んな性の在り方を今まで切り開いてこられた方々なので、切り開いてくれたら心強いです。
二村 生殖やLGBTの正確な知識や思いやりと一緒に、本当はメンヘラとかヤリチンとかダメ男の問題、それと親によるスポイル・支配の問題も、伝えていかなければいけない。もちろん実際に傷ついて学べること、傷つく意味があることもあるんだけど、必要以上の傷は負わないために。セックスや恋愛や自意識にまつわるコミュニケーションの教育って、中学校くらいから始めておくべき。AVや古いタイプの少年マンガや少女マンガからは、あまり役に立たない間違ったロマンばかりを子供たちは学んでしまう。当面、誰もやらないんだったら、我々がなんとかしなきゃいけないと思っています。
ト沢 私たちも性に対しての真面目な話をしながらも、楽しく、実体験をまじえて、まずセックスのことを普通に話せるようになっていけば、少しずつ、議論も広がるかなと思います。
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