Jミルク:これもまた、工業社会や消費社会に対する反発が自然主義を生むことから、近代化の象徴である牛乳が叩かれるという構図でしょう。統計は見当たりませんが、一般的に最近はヴィーガン(乳製品もとらない厳格な菜食主義)が日本でも増えていると言われています。その理由は、戦後(20世紀半ばくらいから)世界中で動物性たんぱく質の摂取量が増えたことが大きいでしょう。どこの世界でも、経済が豊かになると動物性たんぱく質の摂取が多くなるものですが、成人病が増えたように見えるのは、動物性たんぱくの摂取が理由というより、それらの摂取などで栄養が豊かになり寿命が長くなったからという方が正確でしょう。しかし単純な見方をしてしまうと、〈牛乳を含む動物性の食べ物〉と〈病気の増加〉が結びつけられやすくなるのです。
ーー「人間の都合で強制的にお乳を搾りとられる牛カワイソウ!」という動物愛護的な観点から、牛乳を含む食肉を否定する派についてはどう思われますか?
Jミルク:家畜はペットとは違う、という視点を持っていただきたいですね。乳牛もどこかで乳が出なくなれば廃牛となり、屠畜され食肉となります。それは商業上のサイクルなのでどこかで殺さないと、商業として成り立ちません。人類は太古の昔に狩猟採取時代から農耕牧畜時代となり、その後、家畜を飼い始めました。家畜という選択をした段階で、動物は食べるために飼っているのです。そこを言わずして愛護といわれても、それでは何を食べるのかなと。
牛を劣悪な環境で飼育している疑惑
ーー飼育する環境の悪さや、飼育が工業化されることに嫌悪感を示す層もいるようですが。
Jミルク:酪農の世界もIT化が進み、搾乳はロボットで行われることも多くなっています。効率もよくなりますし、外から細菌に感染する〈乳房炎〉の問題がありますから、なるべく人が直接触らないほうが牛の健康のためにはいいんですよ。
飼育環境については、中には理想的とは言えない環境で飼育しているところもあるかもしれませんが、牛を劣悪な環境で飼うと、結果的には経営が成り立たなくなるものです。酪農家自身による酪農経営の講演をお聞きになればお分かりいただけると思いますが、好成績を挙げている酪農家に共通するのが〈牛に寄り添った〉がキーワードだということです。いかに牛のストレスをなくして健康に育てるかが重要になります。そのほうが生産がいいほうにつながっていく現れでしょう。現代社会においてブラック企業が長続きしないのと同じく、ブラック牧場は続きません。