短期間で仔牛のカラダが大きくなるのは、飲む量が多いからであり、人乳に比べて牛乳の濃度が濃かったり、特殊な成分が入ったりしているからではありません。飲んだ成分が体にそのまま吸収されるイメージを持つ方もいらっしゃいますが、ヒトの体はタンパク質、脂質、糖質といった栄養の素を一旦バラバラに〈消化〉してから〈吸収〉します。そして〈代謝〉によりエネルギーや血、肉となるのです。人間にとって必要な栄養素はもとのタンパク質そのものではなくて、それを構成する個々のアミノ酸などが本質なのです。
ーー牛乳のたんぱく質は「異種たんぱく質」だからダメというすごいお説も、HPでご紹介されていましたね。生命活動の基本中の基本である〈消化・吸収・代謝〉をここで説明しなくてはならないのか……! と失礼ですが大笑いしてしまいました。
Jミルク:書籍などでもそうでしょうが、研究の世界でもネガティブな効果を暴いたほうがセンセーショナルで、ポジティブな話はあまり評価されないのが常なんです。だから人がショッキングな物言いに注目してしまうのは、仕方のないことではありますね。
ーー牛乳害悪説が生まれたのは1800年代前半ということですので、牛乳業界の方々から見れば「まだ言ってるの!?」という感じでしょうか。しかしこうした牛乳叩きの経緯を知らない人たちにしてみれば、センセーショナルな「自分たちだけが知っている真実!」と聞こえるのかもしれません。
大企業が儲けるための陰謀?
Jミルク:ネットの普及により、手間をかけずにあらゆる情報に触れることができるようになっていることも、牛乳有害説がなくならないひとつの原因ではありますよね。心理学的に〈選択的知覚〉といい、人には情報の中から自分好みの情報だけ認識する傾向があるため、ある程度は仕方がありません。例えば牛乳がすごく好きなある人は、牛乳に対するポジティブな情報を集める。逆に嫌いな人は、それを客観的に肯定したい気持ちから、牛乳に対する悪い情報を集める。まず、これがあるわけです。情報というのは常にそういうもの。
そこからさらに、その食品に対して関心の強い人はネットだけでなく本を読んだり専門家の意見を聞いたり、時間を使って科学的に考察しますが、関心の低い人たちは手軽にネットで得られる情報を利用します。主婦の場合は〈ママ友〉の影響が一番大きいでしょう。いわゆる口コミです。こういう方面にお詳しいママ友からお話を聞くのが手っ取り早いですから。ただ、最近では活字媒体から情報を得る人が増えているような印象もあり、情報に関する環境も変化しつつあるように思えます。
ーー当サイトで過去に紹介した書籍『子どもを守るために知っておきたいこと』(メタモル出版)にも、栄養士による、牛乳は有害ではないことを説明する章がありますが、同書のAmazonレビューではそれを批判しつつ〈大企業なんかに撒かれてる人たちが書いてるんだから(※原文ママ)〉と低い評価をつけるレビューが登場しています。これも珍しい主張ではなく、大企業は絶対的な悪であるという視点の陰謀論から、〈牛乳利権〉なんて言葉も生まれているようです。