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2016年、文春砲とSNSによって作り出された生贄的「悪女」たち

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ベッキーが切り開いた新時代の「謝罪スタンダード」

2016年も、そろそろ終わり。今年もさまざまな出来事があったが、例年になく“ワイドショーネタ”が世間を騒がせた年だった。その中心にあったのが、ご存知、『週刊文春』(文藝春秋)である。

数々のスクープを暴き出した同誌は、「文春砲」として恐れられた。特に、ベッキーと「ゲスの極み乙女。」のボーカル・川谷絵音との不倫騒動を指す言葉「ゲス不倫」は、新語・流行語大賞のトップテン入りを果たした。ワイドショー、ネットを巻き込んだ社会現象にまで発展したスクープも多く、まさに2016年の話題は同誌が独占したと表現しても過言ではない。

もちろん、現代の「悪女」をテーマにした当連載も、大きな影響を受けた。誌面を彩った数あまたの「悪女」たちは、時代のある一面を映し出す鏡として機能していたように思える。年の瀬が迫る2016年の終わりに、文春砲が咲かせた「悪女」の華を振り返っていきたい。

まずは、新年早々に世間の度肝を抜いた“ベッキー騒動”である。好感度タレントとしてお茶の間の人気者だったベッキーが、年末の紅白歌合戦に出場した売り出し中のバンドマン・川谷と不倫していたのだ。そもそも川谷が結婚していたことすら知らされていなかったファンの間では、大きな衝撃が走った。まさに、文春劇場2016の幕開けを告げる砲弾だった。

ベッキーは、既婚者の川谷の実家に足を運んだこと、離婚届を「卒論」と表現していたことなどが批判を浴びた。さらに、同誌により川谷の妻の告白や、謝罪会見の前に「友達で押し通す予定!笑」「ありがとう文春!」「センテンススプリング!」とLINEを送り合っていたことなどが報道され、レギュラー番組やCMを次々と降板する事態に追い込まれてしまった。

この騒動については、特に女性読者からの反感が強かったと言われている。当然、既婚者である川谷に対しても批判は集中したが、世間からすると明るく正義感の強いキャラクターで通していたベッキーのイメージと、現実との落差があまりにも大きかった。いや、むしろ不倫をしても“レッツ・ポジティブ”を貫き通そうとしたベッキーの態度に、底知れぬ嫌悪感を抱いた人が多かったと分析できる。

表では甲斐甲斐しく謝罪し、裏ではLINEでじゃれ合うポジティブ・モンスター。従来なら隠されるはずの本音と建前が、週刊誌を通じて盛大に流出したという意味で、ベッキーは現代的な「悪女」の先駆けだと言うことができる。そもそもLINE流出に限らず、SNSが普及した現代では、真実を完璧に隠蔽するのは難しい。さらに、人々の好奇の目や嫌悪の感情がSNSを通じて可視化され、それを力の源泉として各種メディアで拡散、増幅されていく。となれば、問題を起こした場合、早々に平身低頭謝罪し、非を認めてしまうのが得策である。

実際にベッキーを参考にして、メディア対応を練ったであろう有名人もいる。文春のスクープではなかったものの、桂文枝、ファンキー加藤も2016年に不倫騒動で世間を騒がせたが、二人の火消しは迅速だった。彼らからすれば、「ありがとうベッキー!」といったところか。

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宮崎智之

東京都出身、1982年3月生まれ。フリーライター。連載「『ロス婚』漂流記~なぜ結婚に夢も希望も持てないのか?」、連載「あなたを悩ます『めんどい人々』解析ファイル」(以上、ダイヤモンド・オンライン)、「東大卒の女子(28歳)が承認欲求を満たすために、ライブチャットで服を脱ぐまで」(Yahoo個人)など、男女の生態を暴く記事を得意としている。書籍の編集、構成も多数あり。

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