井川は、父に医学会の権力者をもつエリートで、沖田が病院に来るまでは羽村の言うことをよく聞く、世渡り上手なお坊ちゃんだった。自身よりもレベルの低い大学出身の沖田に、「論文を書かないと偉い人たちに認められない」と言ったりもする。ある意味、非常に素朴で、問題が生じた際に真っ先に切られる役回りの人間でもある。実際、今回の医療ミスで羽村は井川に対して「大丈夫だよ」と言いながら、どこか他人事のようであったし、壮大は病院側の責任の取り方として井川を地方の病院に飛ばそうともしていた。
一方で、若く、世間知らずであるがゆえに、変化の可能性を持つ人物でもある。それは第一回放送でも垣間見えていた。例えば、羽村と共に銀行員の接待を受け、帰り際のタクシーで、手渡された菓子折りから羽村が金銭の入った封筒を取り出したときの戸惑い(井川も受け取ったのかは定かではない。病院に帰った後に、菓子折りを手荒に扱っていたのが、自分が金銭を受け取れなかったための怒りか、病院の汚れに対する葛藤かはまだ不明だ)をみせるし、沖田の見事な手術に感銘を受けたりもする。病院の経営側が「(こちらの責任を認めることになるので)安易に『大丈夫です』といわないように」と指示を出したにもかかわらず、森本に「大丈夫です」と敢えていう程度に、若さと自信と情熱をもった人物だ。
第一回視聴後「おそらく井川は、今後紆余曲折を辿りながら、沖田側の人物になっていくのだろう」と予想していたのだが、それは思った以上に早く訪れた。沖田が森本の右腕の痺れを解消しようとしている姿に反発していた井川だったが、医療ミスを起こし、誰も自身を守ってくれないことを知り、さらに森本が自殺未遂をはかったことで動揺し、態度を改める。沖田と共に、壮大へ森本の再手術を訴えかけ、院長からの承諾を得たあと「俺もオペに入れさせてください」と懇願。「医者失格って言ったろ」と一蹴する沖田に「俺の患者です!」と声を荒げる。
ここまでは、自分のケツを自分で拭いただけと見ることもできよう。だが井川が、沖田側についたことを確信させる決定的なシーンがあった。
前述の通り、壇上記念病院は患者からのいただきものは受け取れないことになっているようだ。沖田は気にせずそれを頬張ったし、沖田側であろう深冬、柴田由紀(木村文乃)は喜んで手に取る。一方、羽村ら他の医師が手を伸ばさない。この和菓子を食べるかどうかが、沖田側と壮大側のどちらかを分けるのだ。
「すみませんでした。命さえ助ければ救った気になっていました。でも沖田先生を超えてみますから!」と鼻息荒く謝罪と挑戦状を突きつける井川。沖田は和菓子を差し出し、井川は「いただきます!」と言って、それを頬張った。筆者はここで、井川は沖田についていくのだろうと確信した。
すでに書いたとおり、実は井川の態度がはっきりするのはもう少し先になると思っていた。好意を寄せる柴田が、沖田といい雰囲気(恋愛か、信頼かはまだわからない)なのをみて井川は嫉妬していたし、沖田に一種の憧れを抱いているようでしかし羽村にも追従している様子もあり、病院内の対立が深まる中で、徐々に沖田側につくものだと思っていたのだ。もちろん、今後、1度か2度、井川は揺れ動くのだろう。筆者は、柴田にいいところをみせようと暴走し、なんらかの大きなミスをしてしまい、沖田がそれをカヴァーするというパターンになるのだろうと予想していたのだが、今回の構図とあまりにも似ているため、また別の、例えば権力者である父親が関係する何かがきっかけになるのかもしれない。
というわけで第二回では、思った以上に早く、しかし予想とはそこまで外れない形で、井川の変化が見れた。本ドラマはまだまだいろいろな側面から描けることがありそうだ。次回放送に期待したい。
(ドラマ班:デッチン)
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