ともあれ、今回一番笑ってしまったのは、タレント、鈴木奈々さんとその婚約相手である齋藤竜輔さん(一般の方。工場勤務)の「ときめきの軌跡」をまとめた記事でした。鈴木さんといえば、かつてのヘキサゴン・ファミリーを彷彿とさせる(というか、あの輪のなかにいたのでは、と錯覚させるほどの)おバカキャラとしてお茶の間を賑わせております。個人的にはすごく苦手な方でして、テレビに映ると即座にチャンネルを変えてしまうタイプのタレントさんのひとりなのですが、今回の記事は「地方のカップルたちの恋愛模様」をリアルに描いたものなのでは、と思います。
鈴木さんと齋藤さんはどちらも茨城県出身、同じ中学出身で地元の成人式での再開をきっかけに交際をスタートしたと言います。交際当初、すでに鈴木さんは芸能活動を始めていたようですが、正式にお付き合いをする前のデートは「車で土手、海」などに行き、その後は「ファミレスやラーメン屋で外食」でデートをしていたと言います。これ、都会のカップルとはまったく違う消費生活ですよね。オシャレなカフェとか、有名パティシエのケーキとか、雑誌に出てくるデートスポットが一切出てこない感じが逆に新鮮ですが、でも、東京を離れた地方都市のリアリティがここにはあるのではと思います。
ニュースを見るにしても、新聞を読むにしても、議論の対象になっているのは限られた一握りの人の話なのでは? と思うことががたまにあります。例えば、育児休暇についての議論についても、「育児休暇をたっぷり取らせるのが世の中のために良い!」などと言われますけれど、実際問題、日本の企業の大部分が中小企業なわけで、育児休暇を用意できる余裕がない職場が大半であるのが現状でしょう。
そうした議論には、なにか「世間一般」から離れたところで話が進行しているのでは、と違和感を感じることもあります。それと同様に、オシャレなカフェなど有名パティシエのケーキは、東京という限られた地域に住む人にしか与えられていない限定されたものに過ぎません。鈴木・齋藤カップルの記事に感じた新鮮さは、「東京」や「大企業」を中心にマスメディアが語るライフスタイルとは別な世界(しかし、実際はメジャーである)に触れていることにあったと思われます。交際が盛り上がるなかで、彼氏が「仕事にもさらに打ち込み、工場のリーダーになる」とか、まず、普通のファッション誌にはでてこないでしょう。でも、きっとそれが本当の「普通」の一例なのですよね。
彼らの地元・茨城は上野から特急で一時間強の距離にあります。その「中心」からの距離には「そんなに地方じゃない。ウチの地元なんかもっと田舎だ」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。私は、たまたま過去に水戸市を訪ねたことがありますが、そこに広がっているのは典型的な地方都市の風景です。道路を走っている車は、ワゴン型軽自動車かファミリー向けのワンボックスばかり。郊外にイオンなどのショッピングモールがあり、土日になるとその周辺道路が大渋滞に……という光景が存在している。これは逆に東京だけでメジャーになっていない風景とも言えるでしょう。
齋藤さんの愛車は(婚約相手の名前にかけたわけではないけれど)スズキのワゴンRで、後部座席のウィンドウにスモークを張り、湘南乃風とか浜崎あゆみとかのステッカーが貼ってあったりするんじゃないか、すげえウーファーを積んでトランス・ミュージックを爆音で流しながらドライヴしてたりするのでは……など、若干の悪意を含んだものすごく勝手な想像を膨らませてしまうところです。しかし、『an・an』から「地方」が垣間見えたところには、リニューアル後のこの雑誌は結構面白いのでは、と期待を抱かされました。このカップル、婚約に至るまでに「齋藤さんが歯の矯正のために大手術 → ICU行き」とか「破局翌日に復縁」とか「なんなの……?」と思わされるエピソードが満載なのも良かったです。お幸せに!
■カエターノ・武野・コインブラ /80年代生まれ。福島県出身。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。
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