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体験者の話を聞いて「あ、私更年期なんだ」と腑に落ちた。HRT(ホルモン補充療法)によって更年期症状が劇的に改善

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更年期

向き合います。更年期世代の生と性

 不眠、イライラ、指先の強張りと冷え、激やせ、それに心臓の痛み……体調不良を自覚しはじめた40歳頃からの5年間。ちらちらとは更年期のことが頭をよぎりながらもなかなか認めることができなかった美佳さんだったが、自分と同じような症例を持つ体験者の話を聞いた瞬間に「私、更年期だ」と腑に落ちたのだそうだ。

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「あの5年間はなんだったんだろうね」

 美佳さんは更年期のイベントから戻ると、すぐに婦人科に診療の予約を入れる。だが2週間後、診察日の当日になると、また気持ちは千々に乱れキャンセルを考えるように。「今日はやっぱりキャンセルする」と言い続ける美佳さんを旦那さまは「せっかく予約とれたんだから今日は行こうよ、ボクも一緒に行くから」と諭し、病院についてきてくれたのだという。その日から美佳さんのHRT治療が始まった。

――励まして一緒に病院にも付き添ってくれるだなんて……なんていい旦那さまなんでしょう!!

「いや、きっと彼に一番迷惑がかかっていたからだと思いますよ。HRT療法を開始して、症状が落ち着いたいま、夫とよく話すんです。『あの5年間はなんだったんだろうね』って。『もっと早く治療を初めていれば、私たちもっと楽しく生きられたのにね』って」

――すごく切実なお言葉ですね。旦那さまと病院に行かれたその日に、すぐ治療をスタートされたんですか?

「はい。すぐにパッチ(貼り薬)を処方してもらえました。本来なら乳がん検診や子宮・卵巣がん検査などの事前検査を受けてその結果をみなければならないんですけれど、『もう更年期の症状が強く出ているし、どのぐらいその症状がHRTで緩和するか一度試して様子を見てみましょう』と言ってもらえて」

――それでパッチを使用されたわけなんですね。パッチを貼ることで、症状は改善されたのでしょうか。

「はい、それはもう。治療を開始して、もっとも大きな変化は眠れるようになったことだと思います」

――それは大きいですよね。すこやかに眠れるのと不眠とでは、QOL(quality of life/生活の質)がまったく異なりますから。眠れないと、夜が来るのが怖くなりますものね。

「その通りです。眠ることで体も回復されますし、気持ちがまったく違いますから。40歳からの5年間はとにかく夜が来るのが怖かった。パッチを張ってようやくその思いから解放されたんです」

――HRTを開始してからいままで、ずっとパッチを貼り続けていらっしゃるんですか?

「それがね、最近ジェル(塗り薬)に変えてみたんですよ。ジェルも数年前から保険適応になったので。パッチは直接皮膚に貼るのですが、貼る場所は心臓の近くは駄目で、だいたいはお腹周りに貼るという決まりがあるんです。場所をずらして腹部近辺に毎日パッチを貼っていても、周辺の皮膚がかぶれてしまうんです。だからといって、かぶれを治すための軟膏を塗ってからパッチを貼ると、ペロッとはがれてしまって一日も保たない。これ、どうにかならないかなぁと思っていたんですよね」

――パッチはどの程度で貼りかえるんですか? 毎日?

「一日おきなんです。貼っている間にホルモンが体内に吸収されて、ホルモンバランスを一定に整える仕組みです。また剥がして、新しいものを貼って。その繰り返しです」

――それで最近はジェルに変更されたと。素朴な疑問なんですが、お医者様はなぜ最初はジェルじゃなくパッチをすすめられたんでしょうか。

「パッチはジェルより効果が出るのが早いらしいんです。私の場合、最初に病院に行ったときにもう更年期の症状がかなり出ていたので、とにかく早くやわらげるためにパッチを処方してくださったみたいです」

――ジェルもやはりお腹に塗るものですか?

「ジェルもやっぱり心臓に近い場所は駄目で。でもお腹ではなく、腕か太ももに塗るように言われています。私はお風呂上りに腕に塗っていますね」

――それまでの辛かった症状が劇的に改善されたというわけですが、ほかになにか体に変化はなかったのでしょうか。たとえば副作用のようなものは?

「ありましたよ。パッチの使い始めは、少し気分が悪かったことを覚えています。あと胸がすごく張っちゃって。最初は不安になってしまい、このまま乳がんになるんじゃないの……とか考えてしまいましたね、やっぱり。けれどひと月もたつといろんな症状も収まって。初めて使うときは、そういうことが起きる場合があります、って全部ちゃんと説明書に書いてあるんですけれど。いざ自分の身に起きると焦るわけです(笑)。あと、1カ月のうちに5~7日間だけ薬を使わない時期があるんですけれど」

――それはいわゆる休薬期間というやつですよね。

「はい。その休薬期間は、私はかなり辛くなってしまうんです、体が。人によってはこの休薬期間を乗り切るために、大豆由来のサプリメントを服用したりする人もいるみたいです。私もたまに飲む時があります」

――休薬期間が辛いっていうのは、経験した人にしかわからないことだと思います。貴重なご意見ありがとうございます。

いずれ夫との性生活も取り戻したいと思っているが……

 HRT療法を始めたことで、あんなにも悩まされていた不眠が改善し、それとともに指先の冷えや強張りなどの悩みからも解放された美佳さん。うつ症状もなくなり、いまはすっかり心と体の元気を取り戻したのだという。ただ、ひとつだけ気にかかることがある。それは、ご主人のことだ。美佳さんは不眠から解放されたが、ご主人はいまも眠れない日々が続いているという。

 自身の更年期の経験から、その症状は男性更年期ではないかと思い、「病院に行って相談したら楽になるかもしれないよ」と何度か提案したのだが、どうしてもご主人は首を縦に振らない。やはり男性にとってはまだまだ<更年期>を認めることは難しいのだろうか……。

――美佳さんが40歳で体調の変化が現れ、それをきっかけにご夫婦の寝室を分けることになった、と(前編で)お伺いしました。その頃からセックスレスになり、現在もその状態が続いているということですが、それまでは定期的にセックスをされていたんですか?

「最初にお話ししたように、まず結婚した当初、私が20代の頃はとにかく性交痛がひどくって。チャレンジするものの、どうしても痛くって途中でやめてしまったり。あの頃はひと月に一度、セックスに成功すればいいほうでしたね。それが30代で潤滑ゼリーを使うようになって激変して、そこからは定期的にセックスはありました。子供もほしかったですし」

――40から45歳の間は、美佳さんの体調的にとてもセックスのことなんて考える余裕がなかっただろうことはわかりますが……美佳さんが元気になったいま<寝室をもとに戻そう案>は出ないのでしょうか?

「実は最近、一度、寝室を一緒にしたんですけど……。彼がまだよく眠れなくって。結局リビングでテレビ見ながらそのまま寝ちゃうというパターンが多いです。眠れないというのはどれほど辛いことか、私にはそれが痛いほどわかるので。眠れるチャンスは逃してほしくないから、やっぱり寝室を別にしようとなりました」

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日々晴雨

都内在住フリーライター、独身。いくつかのペンネームを使い分けながら、コラム、シナリオ、短編小説などを執筆。コピーライターとして企業のカタログやHPなどのライティングに携わることも。