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神きどりでエラぶる親は、今すぐ自転車教室へ行け

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 11月4日NHK総合で放送された『にっぽん紀行「かならず笑顔にしてみせます~大阪・堺 自転車教室」』では、神様きどりではない指導法を実践されている自転車教室が紹介されていました。大阪・堺にあるその教室は、自転車に乗れなかった子供たちが見事、乗れるようになるという歴史ある教室で、そこでは指導員さんたちが否定的な言葉や態度を使わずに自転車の乗りかたを教える姿が紹介されていました。

 家で、親がどれだけ教えても乗れなかった子供たちが、この教室の平均年齢65歳の指導員さんたちの指導のもとでは、次々と自転車に乗れるようになっていくのです。

 この教室では、指導員さんが子供と話すときは子供の目線までしゃがんで、目を見て話していました。さらに、自転車訓練中の子供を支えるときは、自転車ではなく、子供の体を支え、「側にいるよ」という安心感を与えてあげるのだそうです。最初不安げだった顔つきの子供が、自転車に少しずつ乗れるようになっていくにつれ、自信を取り戻して笑顔になっていく姿がすがすがしかったです。

 対して、親が家で自転車を教えている例として、父・辰治さんと子・良真くん(5歳)親子の自宅での練習風景も紹介されていました。まず、父・辰治さんは、子供用自転車シートの後ろに付いている取っ手部分で自転車を支えていました。

 最近の子供用自転車に、あの取っ手、よく付いているのを見かけますが、子供のいない私は、なんのためにあるのかずっとわからないままでした。あの取っ手、自転車を教える親の為のものだったのですね!

 子供が転んで怪我したら嫌だから、もし私が教える立場でも、絶対握りしめてしまいそうです、あの取っ手。

 とはいえ、指導員さんたちが、子供の肩や腕をそっと支えながら教えていた姿と違うなぁと思いながら見ていると、父・辰治さんはさらに、乗れないながらも一生懸命ペダルを踏む良真くんの背後から(取っ手を握りつつ)、「前を見て」だの「なんで右に寄るかなぁ」などとぶつぶつ言い続けていました。

 子供と話すときはかならず子供と向き合い、しゃがんで子供の目線に合わせて話していた指導員さんたちとは、ここも違っていました。

 早く自転車に乗れるようになってほしいからこそ口うるさくなる、ということは理解できるのですが、父・辰治さんだって完璧なフォームで自転車に乗ってるわけでもないだろうに、と思ってしまいます。けしていじわるな口調ではなかったにせよ、なぜ、エラそうな口調での指導になるのか不思議です。

 最後はついに「お父さん、あっち行って!」と良真くんがわんわん泣き出してしまい、自主練習は終了でした。

 自転車教室での風景と対比させるために、番組があえて、まずい指導例を紹介しているということを差し引いても、最後に良真くんが泣き出してしまったことは、当然だと思いました。

 大人の私でも、できないことにチャレンジしている時に背後から誰かに逐一、ぶつぶつ言われては、泣きたくもなろう、というもの。

 ましてや、良真くんは5歳で、体の大きさは、父・辰治さんの半分にも満たないちびっこです。そんな小さな子にとって、自分の後ろの上方から聞こえてくる、自分よりはるかに体の大きな人の声って、まさに天から降りてくる「神の声」のようなものではないでしょうか。役に立つアドバイスをくれるわけでもないのに「ダメだそれじゃ」とばかり言ってくる「神の声」なんて、ないほうがましです。

 番組後半、良真くんは自転車教室でやる気を取り戻し、そんな良真くんをみて父・辰治さんは「俺の教え方が悪かったのか」、と気づきます。番組のラスト、自転車教室にて、良真くんはついに自転車に乗れるようになるのです。

 大阪・堺にあるこの教室は20年の歴史があり、送りだした数は2万人にものぼるそうです。大人になってから教室に通う人もいるそうです。神様きどりではない指導方法は、子供だけではなく、大人にも有効、ということではないでしょうか。

 ■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』