昨年から、超党派の国会議員連盟が、離婚後に別々に暮らす親子に交流を促す通称「親子断絶防止法案」の国会提出を目指している。別居や離婚により夫婦が別々に暮らすことになれば、子供も片方の親と毎日会うことはなくなる。
議連事務局長の馳浩衆議院議員は、東京新聞にて「養育費の支払いと面会交流を通じて子どもの成長を見守ることは親の責任として果たす必要がある。しかし、実態はいずれも十分ではない」と法案の狙いを語る。
一方で、離婚背景にドメスティックバイオレンス(DV)があり配偶者から子連れで逃げざるを得ない親もいるし、離婚に合意したものの元配偶者と子供の面会が子供にとって悪影響を与える懸念があるケースや、経済的に困窮し養育費を支払うことが不可能などころか日々の生活もままならない元配偶者に子供を会わせるべきか……等、離婚事情は実に様々だ。円満に離婚し、離婚後も関係を継続できるほど“大人”な元夫婦ばかりではないだろう。交流を続けることで、離婚後も元配偶者からの暴力や金の無心に怯え、平穏が訪れないという人もいると考えられる。
馳議員は「離婚やその後については、夫婦でしっかり話し合い、合意することが大切だ」とし、「話し合うのに危険があれば、児童相談所やDV被害者の支援機関に相談するなどしてほしい。第三者に入ってもらうのがよい」と提言するが、その支援機関の体制は果たして現状、整っていると言えるだろうか。子供にとってその“親”との交流が、利益になるかどうかは、すべてケースバイケースで個別の事例ごとに判断していくしかない。法案だけでなく、サポート体制を整備することが同時に求められる。
実際に「子供に会いたいが、会わせてもらえない」と嘆く親はいる。この法案は、そうした親のためでなく、あくまでも「子供の利益のため」という名目で提案されているが、サポート体制なきまま法案だけが通過してしまったら、子供は今以上に離婚親に振り回されることになりかねない。しかし子供と引き離されたと感じている親にとっては、福音のようにも感じられるだろう。
1月にルポ『わが子に会えない 離婚後に漂流する父親たち』(PHP研究所)を上梓した西牟田靖は、離婚後、子供に会えなかった父親である。この本では同じように「わが子に会えない」父親たちを複数取材し、それぞれの事情や心境を追った。読んでいくと、「会わせたくなくなる気持ちもわかる……」と元妻側に同情したくなってしまうケースも少なくない。他方、宗教に入信した妻が子供を連れて宗教施設に消えてしまったケースや、元妻から頻繁にすさまじい暴力を受け警察沙汰になった挙げ句子供を連れ去られた男性のケースもある。やはり各夫婦ごとに複雑さは様々だ。そもそも離婚に関しては双方の言い分が食い違い、どちらに非があると判断できないこともあるだろう。
messyで小説『神様がくれたインポ』(『愛のことはもう仕方ない』に改題し書籍化)を連載していた歌人・作家の枡野浩一もまた、離婚から10年以上経過してもなお一貫して「息子に会いたい」と主張し続ける父親である。離婚に際し、子供の養育は元配偶者が行うことで合意したが、枡野と子供は定期的に面会できる、と約束を結んだ。だが元配偶者はその約束を一度しか守らず、二度目の面会日に約束の場所へ現れることなく、連絡なしに引越してしまった、という。タラレバな話だが、もしその当時すでに「親子断絶防止法」が成立していたら、元配偶者は定期的な面会を継続しただろうか。私にはそうは思えない。枡野の小説から、元配偶者は自分の感情を犠牲にしてまで、法律や常識を遵守するような人物ではないと受け止めるからだ。強制力を持たない「親子断絶防止法」は、そうした人物には何の影響も及ぼさない。生真面目で世間の常識に縛られがちなタイプの人間だけに、有効だろう。「親子断絶防止法」は、様々な呪縛をほどいてやっとの思いで離婚した人を、逃がさないように縛りつける新たな足枷になりかねない。そうなってしまわないよう、私たちは法案の行方を監視していく必要がある。
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枡野浩一さんと西牟田靖さんが、3月1日に「わが子に会えない」ことをテーマにしたトークイベントを開催します。この問題に関心を持つ読者は、足を運んでみてはいかがでしょうか。
文禄堂高円寺店3月1日(水) 『わが子に会えない』発売記念 西牟田靖×枡野浩一 トーク&サイン会
■会場:文禄堂高円寺店(東京都杉並区高円寺北 2-6-1 高円寺千歳ビル1F)
■日時:2017年3月1日(水) 19:30~ (開場19:00)
■参加方法:1000円+1ドリンクオーダー制
※当日、受付時に御精算お願いいたします
■予約方法:店頭、電話(03-5373-3371)、Peatix(http://peatix.com/event/237306/view)にてご予約を承ります。
※定員50名
※このイベントについてはmessyでもレポートを予定しています。