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夫婦が結婚生活を続けられなくなった理由を、これ以上ない説得力で伝えている/『カルテット』第六話レビュー

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求めていたものが違いすぎた

 真紀が良い家族・良い奥さんでいようとすればするほど、幹生は失望します。すれ違いは深まるばかり。ある日、幹生は、『残業で遅くなる』と嘘をついて一人で映画を観に行きます。そこは真紀なら寝てしまいそうな映画を上映する渋谷のおしゃれなミニシアター。上映後、偶然にも元カノ・玲音(大森靖子)と再会した幹生は映画の話で盛り上がって楽しい時間を過ごします。

 黒縁メガネに毛先だけ赤い髪色の元カノは、いかにもサブカル好きで、幹生にとって気の合う女性だったはず。懐かしさに笑みがこぼれますが、それでも幹生は彼女の「今から家に来る?」という誘いに乗らず、真紀に頼まれていた食器用洗剤を買って帰宅しました。すると、どうでしょう。先ほどまでのおしゃれなカフェ、おしゃれなBGM、おしゃれな喧騒と打って変わり、真紀と暮らす我が家は(そこそこ良いお値段の分譲マンションのはずなのに)味気なくつまらない場所のように見えてくるから不思議です。真紀の口から出てくる話題は相変わらずご近所付き合いの相談。近所の人に持っていくイチゴ大福、8個入りと12個入りのどちらがいいかなんて、幹生にはどうでもいいことでした。

幹生「好きなものを見て、隣を見たら彼女も同じように感じている。(そうであったら良いけれど、)そんなことは些細なこと。自分にそう言って」

 自分に言い聞かせて、スルーしようとしていたけれど。ある時、夫婦で温泉旅行に行って。

真紀「そこですごく仲のいいご夫婦にお会いして」
幹生「聞いたら、結婚して40年ですって」
真紀「40年かあって」(しみじみ、いいなあと)
幹生「40年かあって」(その長さにげんなり)

 2015年7月。真紀が救急車で運ばれ、入院。幹生は一人暮らしの楽しさに浮き足立ち、ウッキウキで缶ビールを空け、その瞬間、あることに気付いてしまいました。

幹生「彼女は何も変わってなくて。はじめから、ずっと俺を好きでいてくれて。なのに」

 2016年1月。いつものように出勤する幹生を見送る真紀。

真紀「彼が会社を辞めてたのを知ったのは、彼がいなくなった後からで。転勤の辞令が出てたことも辞表を出したことも何も言わないで、いつもどおり出勤するふりしてた」

 会社を退職しているから早く帰れる幹生は、真紀と一緒にキッチンに立ちます。真紀はパエリアの鍋敷き代用として、かつて幹生が真紀にあげた詩集を出します。その詩集を、真紀は9ページめまでしか読んでいません。付き合い始める直前に幹生が渡したもので、結婚直後に栞が「9ページ」に挟まれていることに気付いた幹生は小さな違和感を覚えていましたが気に留めていませんでした。でもどれだけ時間が経っても、真紀が詩集を読み進める気配はなく、挙げ句「鍋敷き」。幹生のショックは大きかったのでしょう。

 翌日、気がつくと幹生はベランダに足をかけていました。3Fから転落して入院することになった幹生の隣のベッドには、包帯ぐるぐる巻きの愉高(離婚前)。愉高は気安く声をかけてきて、真紀のことを「綺麗で優しそうで品があって一億点の妻じゃないですか」と羨ましがり自分の妻がいかに暴力的か話し、幹生が渋い顔で「唐揚げにレモンかけられる」と真紀の難点を示すと「それぐらいで」(←おい)と一笑に付すのです。だから幹生は、「入院したのも妻が原因なんですよ」「俺、妻に背中押されて、ベランダから落ちたんですよね」と、嘘をつきました。

幹生「悔しくて、言い返したかったから」

 退院後、居酒屋で幹生が元同僚と過ごしていると、偶然、真紀が友人2人と同じ店に入って来ます。唐揚げにレモンをかけるか聞いてくる同僚に「あ~いらない、俺レモン嫌いだから」「外で食べる時ぐらい好きに食べさせてくれよお」「(結婚して)まだ2年かあ(心底イヤそうに)」「お前何もわかってないな。愛してるよ。愛してるけど、好きじゃないんだよ。それが結婚」などと幹生が愚痴っている現場を、その目で目撃してしまった真紀は、ショックを受け、店を出ていきます。直後、幹生も真紀がそこで話を聞いていたと、気づきました。本音を聞かれてしまった。

真紀「私は、家族が欲しくて結婚して」
幹生「結婚しても恋人のように思っていたくて」

真紀「気がついたら、彼は家族じゃなくて片思いの相手になってて」
幹生「彼女は恋人じゃなくて家族の1人になってて」

真紀「何でこんなことになったんだろう」
幹生「欲しかったものがお互い逆さになってて」

幹生「でもこんなんじゃだめだ。ちゃんと話そうって」
真紀「ちゃんと話そうって」

 お互いに、そう決めたにもかかわらず。真紀の待つ自宅にいつものように帰宅した幹生は、やっぱり何も言えず、真紀も切り出すことができず……。目を逸らし、テレビをつけて。いつもと全く同じに靴下を脱ぎ捨ててビールを飲む幹生。キッチンにしゃがんで夫に気取られぬよう泣く真紀。耐え切れず真紀が「ラー油忘れちゃった。ちょっとコンビニ行ってくるね」と外へ出た数分後に、幹生は、素足にスリッパで自宅を飛び出し、真紀の佇む反対方向へ走り去りました。もしかしたら、真紀を追いかけて出たのかもしれません。でも、その背中を見たら、急に、逃げたくなってしまったのかもしれません。こうして幹生は、リビングに靴下を脱ぎ散らかしたまま、消えたのです。

 以上、男女が出会って結婚して夫婦になり関係が壊れていく過程が、夫と妻双方の視点で懇切丁寧に説明され、いかに嚙み合っていない関係性だったのかがひしひしと伝わってきました。なんという説得力でしょう。真紀は境子に「離婚したいと思っている」ときっぱり告げました。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー