秀子お嬢さまが体現しているのは、被虐のエロスです。生まれてこの方、昼の光をあてたことがないのではないかと思うほど白い肌と、華奢な身体と、常に不安に揺れている瞳と……秀子を構成するすべてが男性の嗜虐心を刺激しまくりますが、彼女自体が叔父・上月によって作られた“作品”でもありました。彼はその界隈では有名な希少本コレクターです。しかも、変態趣味専門の。“変態紳士”たちを集めて彼らの前でキワドイ内容の小説を秀子に朗読させ、その視線にさらされる秀子を眺めては悦に浸っています。
同作では韓国人の役者らが日本語で話すシーンが多いのですが、秀子のたどたどしさが残る日本語でくり返される卑猥フレーズによって、倒錯したエロスがいや増すのです。
男と女のあいだに上下関係があるからこそ生じる、嗜虐と被虐のエロス。さらには、統治している国家とされている国家という上下関係もあり、本来なら憎むべき支配側の文化にあこがれ、日本人になりきろうとする人たちの歪(いびつ)さも、数々のエロスを生み出しています。
男性に虐げられ、騙されるほど被虐性が増して官能的に輝く秀子ですが、彼らに心のギリギリのところまで侵食されながらも、最後の最後は決して明け渡さない。それは彼女を騙すために屋敷に入り込んだはずのスッキも同じで、獰猛だけど警戒心が強い野生の小動物のような彼女もまた、簡単に男の思いどおりにはならない女性です。
先述した、最大の見せ場であるセックスシーンにおいて、そのふたりの関係は対等です。立場上は明らかな上下関係があり、ていねいな言葉も崩さないのですが、魂はフェア。その純度の高さこそが、セックスシーンの“その先”なのでしょう。
最後に。エロスを音で表現するシーンにうっとりしたことを書かせてください。セックスにおける“音”といえば、凡人である私はあえぎ声や、濡れた肉体がこすれ合う音、腰と腰を打ち付け合う音……ぐらいしか思いつきませんが、同作ではものすごくロマンチックな方法で耳にエロスを届けてくれます。昔の芸者さんがそれをしていた、という話も聞いたことがありますが、それはさておき、やはりふたりの関係と想いが非常に純度の高いものであることがその音に託されているようで、観ている私も心が洗われる気分になったのでした。
▼映画『お嬢さん』公式サイト
http://ojosan.jp/
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