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壮大(浅野忠信)によって、恋人が略奪されたことを知った沖田(木村拓哉)の怒り。/『A LIFE~愛する人』第八話レビュー

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 このドラマにはいくつかの対立軸がある。深冬を巡った沖田と壮大。病院経営を巡った壮大と虎之助。利己的な羽村は、学生時代の友人である壮大と同調し、自らの出世のために周囲をうまく利用するタイプの人物であった。患者のことをなによりも思う沖田とは当然意見を異にすることが多い。だが、恩師の手術ミスを巡る対応で、自分にとって邪魔な存在はどんな相手でも、学生時代の友人である自分すら切り捨てようとする壮大と対立してからは徐々に態度が軟化してきていた。

 だが周囲には、過去の羽村のイメージがいまだ強く残っている。他の医師からは、羽村が一心の手術を引き受けると提案したのも、沖田先生は深冬先生の手術を終えれば病院から去るだろうから、自身の出世の妨げにならないと判断したように勘ぐられてしまう。部下の井川颯太(松山ケンイチ)が深冬の脳腫瘍を知っていたにもかかわず羽村に伝えず、さらに友人の壮大すらそれを明かしてくれなかったという、部下にも友人からも信用されていない羽村の孤独は、「お疲れ様」と声をかける羽村に病院スタッフが気づかないシーンで強調されていた。残り2話で、羽村の孤独はどう描かれるのだろう。

 病室で意識を取り戻した一心は、担当医が息子ではなく、羽村であることに不満を漏らす。「いま沖田先生は難しい手術を控えているんです。身内や特別な思いのある人でしたら、難しいオペになればなるほど他の医師に任せるものなんです」と羽村と井川はなだめるが、職人気質で頑固親父な一心は譲らない。「お前は客を選ぶのかよ。職人なんだろう? ベルギーの王族の家族は手術して、自分の家族はやらないのか。お前はなんのために医者になったんだよ」。けしかけられた沖田は答える。「羽村先生、すみません。僕、やります」。

 沖田が父親の手術を担当することを耳にした虎之助は、沖田を院長室に呼び出した。「7日後に深冬のオペを控えているのに、どうして家族のオペをするんだ。大丈夫なのか」。沖田は答える「大丈夫です」。沖田の大丈夫は、本当に大丈夫なときにしか言わない。だが虎之助は納得しない。「大丈夫じゃないだろう。だいたい誰がシアトルに行かせてやったと思っているんだ」。

 このとき沖田が虎之助に対してわだかまりを抱えていたことが明かされる。

沖田「僕にオペの技術を学ばせるためだけにシアトルに送ったんですか?」
虎之助「他に何がある。私のことが信じられないのかね」
沖田「だったら僕のことも信じてください。オペはすべてしっかりやります」
虎之助「……わかった」

 沖田は、自身がシアトルに行くことになったのは虎之助の提案だと思っていたのだ。壮大が、虎之助に「沖田のために」とシアトルへの武者修行を提案したことを沖田は知らない。シアトルに飛び立つ前、沖田は深冬と付き合っていた。そして別れることもなければ、戻ってくると約束することもなく、虎之助にすすめられるまま武者修行のためにシアトルに向かった。その後深冬と壮大は結婚する。沖田は、虎之助が自分と深冬を引き離したんじゃないかという疑念を抱えていたのである。

 沖田が院長室を去ったあと、虎之助は理事長を呼び出す。「深冬のオペができる脳外科医を探して欲しい。もっと腕のいい脳外科医がいるかもしれない」。過去の対応からもわかるように、虎之助は決して善人ではない。身内に対して躊躇なくエコヒイキするタイプの人間だ。娘のためならば、特別に可愛がり、信用していた沖田すら裏切る。

 手術を控えた深冬は、娘の希望で、壮大と三人で水族館に向かう。壮大は二人の姿をカメラに収め続ける。壮大は榊原がいうように、本当に深冬が死ねばいいと思っているのだろうか。沖田は父親の手術を引き受けた。自分は、身内は切れないといって沖田に深冬の手術を任せた。もう本当に、深冬のことを愛していないのだろうか。壮大は深冬の手を離せない。本当にこれでいいのか。

 脳外科医は見つからなかった。院長は沖田の部屋を訪れる。「深冬の手術は4日後。明日はお父さんのオペだ。大変だろうけど君なら乗り切れる」。沖田は院長が他の医師を探していたことを知らない。「それで10年前のシアトルの件だが……あれは私が君と深冬の仲を裂くためじゃない。もともと壮大君が、君の将来を思って、と提案したものだ。今となってはなにを思って提案したかわからんが……。実際、君は立派に成長して戻ってきてくれた」。 沖田は唖然とする。パズルのピースがすべて埋まる。壮大が深冬と結婚したことも、深冬の手術を自分に任せたことも……。

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