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壮大(浅野忠信)によって、恋人が略奪されたことを知った沖田(木村拓哉)の怒り。/『A LIFE~愛する人』第八話レビュー

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 翌日に一心の手術を控える沖田のもとに、井川と柴田が訪れる。「今なら他の医師に代わってもらえますよ」と気遣う井川に沖田は答える。「自分で救いたいんだ。母親は出来るオペがないと言われ、大きな病院から小さな病院に移った。そこで出会ったいい先生は最後まで諦めなかった。母親も、この先生で助からないなら仕方ないって納得して亡くなった。でも僕は助かって欲しかったし、納得できなかった。だから医者になるって決めた。そんな自分を親父だけは黙って信じてくれた。今の僕ならあの頃の母親を救う技術も自信もある。大切な人を救えるような医者になりたいってずっとどこかにあったのかもしれない」。

 これまで沖田の胸のうちはあまり明かされてこなかった。これは沖田が初めて自分の気持ちを吐露した瞬間かもしれない。

井川「お父さんのオペ怖くないんですか?」
沖田「ちょっとね」
井川「怖いならオペしちゃいけないんじゃないですか?」
沖田「準備は出来てる。明日、よろしく」

 そう言って井川と柴田の肩をたたき、沖田は二人を送り出す。

 井川は以前、自分には父親の手術なんて出来ないと柴田に漏らしていた。そんな井川に柴田は「お父さんのオペができなかったら、深冬先生のオペも出来ないからね」と答えるが、鈍感な井川はそのとき、その意味を理解できず、「心臓と脳って全然違いませんか?」とトンチンカンな返答をしていた。だが今は一心から話を聞いて、沖田と深冬が恋人関係にあったことを知っている。

井川「沖田先生は今も深冬先生のことをまだ思ってるんですよね。未練がましいなあ」
柴田「一途ってことでしょ」
井川「未練たらたらですよ。あーあ、自分が情けない。俺、そろそろ(父親が院長を務める)満天病院に戻ってこいと親に言われてるんです。沖田先生みたいに現場にい続けるか、経営にかかわるかを決めないといけなくて。どうしたらいいかわからないよ。沖田先生は明確なんだよ。大切な人を救えるように腕を磨いて、本当にやろうとしている。どれだけの覚悟をもってやってるんだよ。おれはちまちま迷ってさ……」
柴田「成長したじゃん。迷ってるんでしょ。自分で考えようとしているだけでも進歩だよ」
井川「それってほめてるの? けなしてるの?」
柴田「けなしてるに決まってるでしょ」

 井川は柴田に思いを寄せていた。家の事情で医者になれなかった柴田は、お坊ちゃん医師で情けない井川に対して時折怒りを見せていたが、ふたりは徐々に親密になっているように見える。そして、おそらく柴田は、傍からみれば恵まれているように見える井川にも、井川なりに悩みがあることを知る。柴田は沖田に思いを寄せている。井川の恋はどうなるのだろう。

 そして一心の手術当日を迎える。羽村は「沖田先生なら大丈夫」と声をかける。やはり羽村はすっかり変わった。順調かと思われた手術だったが、沖田がミスしてしまう。呆然とし、震える手をみる沖田。そんな様子をモニター越しに見ている医師らはいう。「沖田先生もスーパードクターじゃなかったんですねえ」。彼らと羽村は明確に違うとこのシーンで確信した。「沖田先生だって人間だもの」と答えた羽村の台詞はおそらく皮肉ではないだろう。

 動揺する沖田を井川がサポートする。榊原の父親を手術する際、思わぬトラブルに動揺する井川に沖田が渇を入れるシーンが思い起こされた。井川も随分と成長した。井川のサポートもあり、立て直した沖田は無事に一心の手術を終えた。

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