
(C)shiqchan
病んでいると判断を誤ってしまうことが多々あるキュウ。
最近、歯医者に歯列矯正を薦められ、自分の歯並びについてあれこれ悩んでいたら、久々に10年以上前の男のことを、ふと思い出したのキュウ。
2002年。当時のあたしは、ずっと大好きでやっとおつき合いすることになった彼とアッサリ別れたばかりで、彼のことが忘れられず、なぜ別れることになってしまったのかと自分を責め続け、自分なんて死んだ方がましなクズ野郎だと本気で思って、すべてに対する自信がなくなり、自分の殻に閉じこもり、人とコミュニケーションを取ることを拒絶していて、とにかく腐っていたキュウ(え、今も? うるせえキュウ!!!!)
このままじゃいかん! と自分を奮い立たせて向かった先は、英会話教室。なるべく自分から遠い、異文化の人とコミュニケーションを取ることからリハビリしていこう、と思ったのキュウ……。
数カ月きちんと通い続けて英語が少し話せるようになってきた頃、あたしは最寄り駅で一人の黒人男性さんに声をかけられたキュウ。
たとえば黄色人種と一言で言っても、日本人、韓国人、中国人……出身国やどの国の血が混ざっているか等で見た目の特徴は変わってくるし、「黒人さん」といっても色々いるキュウ。そのメンズは、こう、NBAでダンクきめてるようなアーバンな感じではなくて、大地の匂いを感じるというか、そこはかとなく海洋の芳しさも漂うような、そんな素朴な印象の持ち主だったキュウ。
「Can you speak English??」
何か言葉が分からなくて困っていることがあるのかな、と調子に乗った親切心と、英会話の成果を試してみたい好奇心で、あたしは「A little!(ちょっどだけなら~!)」と答えてしまったキュウ。あんなに病んでたのに初対面の人と異文化コミュニケーション始めちゃってる!!! あたし、変われたキュウ!?!?
話を聞けば、まあ要はナンパだった。
あたしは彼にメールアドレスを教えたキュウ。
彼は「トニー」と名乗ったキュウ。
地味なシャツとジーンズという格好で素朴な風貌のトニーは、斜視だったキュウ。それまで自分に自信がなく、人の目を見て会話をすると冷や汗が止まらなかったあたしが、なぜか彼とはじっと顔を見て話すことが出来たのだけど、後でよくよく考えてみると「斜視だからかもキュウ!」とわかったキュウ。
これはきっと運命。
あたしは出会ったその日に運命を感じ、信じて疑わなかったキュウ。
ね、誤った判断……キュウ……。
乳首が透けてるキュウ
「外国人の彼氏がいたら何だか特別感と優越感があるし!」と、何重にもひん曲がっていた当時のあたし。失恋からくる自己否定を宥め、心の空洞を他人で埋めようとしていただけなのかも知れない……愚か、あたしは愚かな子宮だキュウ!
ともあれナンパから一週間、何度か英語と簡単な日本語を使ってぽつりぽつりメールをして、メールの返信遅いなあと思っていたら、「英語は話せるけどあまり書くのは得意ではないから直接会って話したい」と。(え? 英語書けないの……?)と疑問に思うも、言えないあたし。愚かキュウ~!
出会った駅で待ち合わせをし、先に着いたあたしが待っていると、向こうの方からゆっさゆっさと肩を揺らし、まるでマイケルジャクソンのPVに出てくるギャングのように調子こいた雰囲気でゆっくり歩いてくる奴がいる……通り過ぎる人がみんな振り返っている!
頭にはあの、ラッパーの人がかぶってる白い水泳帽みたいの&新しいターバン、秋だというのに素肌(!)にバスケットボールの番号が書いてあるメッシュのタンクトップみたいの着てて(乳首乳首!!!)、歩く度に首に何重にもかけてる金のネックレスがじゃらんじゃらんと音を立てている。パンツ見えすぎだし! ってくらいの腰パンに、お前明らかに新品だろう! というバッシュを履いて、ぱっかきゅっぱっかきゅっと耳障りな足音を立てている、そいつこそ!

OH,NO~~~~Q~~~
トニーだったキュウ……!!!!!!!!!
…………お前、前回と全然キャラが違うやんけ!!!
素朴な印象は演出だったんかい!?
唖然とするあたしの目の前にどっしり立つトニー。「YOべいべ?」みたいな挨拶をされたけど、あたしは杓子定規な「はろ~」しか言えなかったキュウ。
どうやらトニーは恋愛モード200%スイッチ入ってしまったみたいで、スゥイィイイートな空気感を醸し出してくるキュウ!
いや、あたしはあの素朴な君と会ってみたいと思ったし、ってかみんなこっち見てるし、そんな着こなせてない服全然似合ってないし浮きまくってるし、ってか乳首!!! 恥ずかしくて一緒にいたくねぇうわぁぁあああ!!! と消えたくなったキュウけど。
こんなに浮き足立った様子、恋に恋するオーラを全身で表現している彼を置いて帰るのも罪悪感半端ないし、人目を避けるように下を向いて彼が停めてきたと言う車まで急いだキュウ。
そこは駅前だけど若干田舎だから、ドライブデートの予定だったのキュウ。
車、それは、白いオンボロの小さな軽自動車だった。
これあなたの車?(出稼ぎに来てるみたいなこと言ってたけど……)と聞くと、トニーは子どもがお母さんに報告するみたいに嬉しそうに「カッタ!」と言ったキュウ。
外国人の大きな体にはあまりにも小さすぎる車に、彼は頭を折って、足をたたんで乗り込んで、もう運転席いっぱいに体育座り状態になっている。走り出して、「ミュジックきく?」と言うので、お願いすると、突然車体がどかんどかんと揺れ始めて、耳を塞ぐほどの爆音レゲエが社内に響き渡った。「トランクにウーハーツンデル」と言う。
……これ外にも音漏れててみんな振り返るやつじゃん! ヤンキーがよくやってるハズいヤツじゃん!! もう顔から火が出すぎて黒焦げになりそうキュウ……マジ申し訳ないけど帰りたいキュウ~~~。
車は彼がよく行く店、という場所を目指して走る。とにかく早く着け早く着けと祈り、やっと着いたところはまあファミレスだったキュウけど……。
あたしはそこで初めて彼がバハマだかパナマ出身だということを知ったキュウ。え、それどこ?? 場所がわからないけどだから英語書けないのか、と納得。
(でもさっき調べたらバハマはアメリカのフロリダ州のちょい下の位置にある国で英語圏だったキュウけど……てことは正解はパナマ/スペイン語圏?)
ファミレスではまだまだ素性の分からない彼を警戒しながらカルボナーラを食べたキュウ。彼はミートソースを食べていたキュウ。
新聞の印刷工場で働いているという彼のピンクの手のひらのシワには黒いインクが染み込んでいたので、働いていることは間違いないと思ったキュウ。
パスタを食べ終わると、日本語も英語も片言同士、話すことも少なくなり、テーブルの上で手を握られ、やたら爪を撫で回されたキュウ。
じっとあたしの顔を見つめて無言で爪を撫でる。外国人はスウィートだなぁ……と思っていたら、トニーは突然こう言ったキュウ。
「歯カワイイネ? その歯ホンモノ??」
生まれて初めて言われた台詞キュウ!!! 何じゃそれ!!!
確かにあたしは歯並びが悪いし特に前歯が特徴的なすきっ歯だけど、意味わかんねえ~キュウ~。
やたら爪を撫でられたこと以外は、その日の彼はとても紳士的で、ご飯を食べた後は最寄りの駅まで送ってくれたキュウ(またレゲエドンドンだよ……)。
帰りに「キミにプレゼントがアル、キミのイメージにピッタリダカラ」と、剥き出しのカセットテープを渡されたキュウ。
時代はMD全盛期の頃(今やもうMDさえも死語!!!)、いまどきカ、カセットテープかよ、と思いながらも、まあお国柄とか、色んな事情があるのだろうと思い、家に帰って再生してみると……(再生機器がフツーに各家庭にあったキュウよねえ)
何年も前に大ヒットしたTLCのアルバムがダビングされていた。
これCD持ってるキュウ……。でもせっかくもらったから聴いていると、それは彼のお気に入り順に曲が並び替えられていると気付いたキュウ。でもA面からB面に行く間にも曲が入っていて曲が飛んでるやないかーい!! それテープへのダビングで一番やっちゃいけないヤツキュウーーー!!!!!
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