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本当の意味での「助ける」とは…その場しのぎになっていませんか? 

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 このフリースクールで、プレシャスはABCの書き方から学び始めます。フリースクールでの課題は、毎日ノートに日記などの文章を綴ること。ノートには、ミス・レインが毎日、返事を書き込んでくれます。

 「incest(近親相姦)」 と「insect(昆虫)」の言葉の違いすら最初は分からなかったプレシャスですが、フリースクールへ通ううちに語彙を増やしていきます。最初は一切の読み書きが不自由だったけれど、福祉事務所にて、自分に関するファイルを読めるようになるまでに進歩します。さらには、もし福祉事務所の言うとおり付添婦として働いた場合、実質の時給が2ドル20セントになるなどの自分を取り巻く環境のことも、客観的に理解できるまでに成長するのです。

「助かる」方法

 これまでの人生でも、する必要のない苦労を散々強いられてきたプレシャスですが、映画中盤、さらに輪をかけて過酷な試練に見舞われます。授業中、プレシャスはノートに何も書き込むことができず、「もう疲れた」とレイン先生に泣いて訴えます。

 そんな時、あなたならどう答えますか? もし私がこの場にいたら、未熟なので、多分絶句してしまうと思います……。

 そんなプレシャスに、レイン先生はこう言うのです。「書くのよ!」と。

 安易な励ましや、同情の言葉をかけることは、やってしまいがちですが、その場しのぎにしかなりません。辛い時、自分のいる状況を論理的に捉え直すということに、書くことは確かに効果的だと思います。本当に自立して、自分の人生の困難に立ち向かうためには、書くことがまず第一歩になるということは私も経験があるので、レイン先生の「書くのよ!」という一言は、極めて効果的なアドバイスだと思います。

 とはいえ、泣いている子を表面的には突き放し、一見冷たくも見えるこのようなアドバイスをするのは、並大抵の人ではできないのではないでしょうか。アメリカ映画ならではのメッセージだと思います。

毒母の生態がわかる

 最後に、この映画は、毒になる母親との生活がどのようなものか、よく分かる映画でもあります。プレシャスの母、メアリーは、いつもプレシャスに暴言と暴力をふるっています。プレシャスは、メアリーの投げつけたものが頭に当たって、キッチンで気絶し、水をぶっかけられて目を覚ますなど日常茶飯事です。メアリーは他にもフライパンで頭を殴ろうとしたり、テレビを階段の上からプレシャスめがけて投げおとしたり……。

 メアリーは、急に何の前触れもなく暴力をふるうので、危なくてしょうがない。メアリーが暴力を振るうシーンは、虐待家庭で育った人ならば、既視感を感じるのではないでしょうか(ちなみにメアリーは、私の実家の母とそっくりです)。毒母との生活は、それ自体、生命の危機と隣り合わせだという現実が非常によく描かれていると思います。

 もしプレシャスがフリースクールに行かず、読み書きができないままであったら、虐待は、プレシャスの子供たちへと連鎖したかもしれません。けれど、プレシャスは、子供には読み聞かせをし、学校で学んだことを話してあげたりしています。

 映画『プレシャス』は、虐待を受けた人が、どうすれば自分の人生に希望を見出し、自分と下の世代を虐待から「助ける」ことができるか、貴重な一例を示してくれる名画です。

■歯グキ露出狂/ テレビを持っていた頃も、観るのは朝の天気予報くらい、ということから推察されるように、あまりテレビとは良好な関係を築けていなかったが、地デジ化以降、それすらも放棄。テレビを所有しないまま、2年が過ぎた。2013年8月、仕事の為ようやくテレビを導入した。

連載【月9と眼鏡とリモコンと

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』