【前回までのあらすじ】
晴れて子宮内膜症治療のかかりつけの病院も決まり、ピルを服用しながら経過観察中の夢子。だけど人並みに生活できるところまでの回復はなかなかむずかしいみたい。仕事も趣味も人づき合いもこなせないからって、「自分には生きている価値がない」と思い悩んじゃってるの。夢子ったら、いま、自分の人生も体も大嫌いなんですって~。
* * *
夢子が落ち込むのも無理ないけどね。子宮内膜症って、閉塞感の強い病気なの。子宮内膜症が発覚してから、夢子はいつも強迫観念のような思いを抱えていたの。それはこんなものよ。
「自分が子宮内膜症であることは絶対に人にはいえない! いったが最後、自分は社会的に死ぬ!」
だって夢子の職場は完全なる男性社会。女性の同僚は2~3人しかいないし、夢子も含めてそのほとんどが実権をもたない派遣社員よ。
世間ではよく「女子社員が給湯室で繰り広げる陰湿な噂話」に対する恐ろしげなイメージが取りざたされるけど、男性ばかりの職場で働いていた夢子はそのような事象に悩まされたことはなかったわ。夢子の職場でおしゃべりなのは、常に男性陣。恐れるべきは彼らが「喫煙室で繰り広げる陰湿な噂話」だったんですもの。
ある女性社員が所用で有給を取ったとき、
「所用なんて嘘に決まってる。彼女は精神の病気で休みをとったに違いない」
と、なんの根拠もない噂を広める暇なおじさん社員がいたの。
通院のための休暇申請が後ろめたい
心ない噂を広めることに特に理由はないのよ。暇をまぎらわしたいだけなの。そんな人が職場にいると知って、夢子はゾッとしたわ。
男性で「子宮内膜症」について正しい知識をもった人がいるなんて望むべくもないじゃない? それどころか「子宮内膜症」イコール性病、と勘違いしている人がまだまだ多い。そんな環境で自分の病名が知れたら、男性同僚や上司の暇つぶしの格好のネタにされてしまうことは容易に想像できたわ。
「極重さん、なんか子宮の病気なんだって」
「へぇ~、あの人ビッチなんだ」
そんな噂が広まってしまっては、職場にいづらくなってしまう! 親とも縁を切っている夢子に、仕事を辞めるという選択肢はなかったの。金銭的に頼れる人はいない。しかも、仕事で収入を得ないことには治療費も稼げない。
長く勤めるためにどんな形のリスクも避けるべきだ。この病気であることは墓場まで持っていく秘密、くらいの覚悟でいようーー夢子は歯ぎしりしながらそう決心したの。