肝心の壮大は、実家の鈴木内科病院でひとり、酒を飲んでいる。髪はぼさぼさで、無精ひげが生えている。服は病院から追い出された日と同じだ。壮大は、茫然自失の日々を送っている。そんな壮大のもとに沖田が向かう。深冬が手術前に記していた手帳を壮大に手渡すよう頼まれていたのだ。
沖田「いい加減戻ってやれよ、深冬だってお前のことを待ってる。深冬が俺にオペを頼んだのは理由がある。お前がオペをして万が一のことがあったら、お父さんのオペが原因でお母さんに何かあったって子どもが聞いたら悲しむだろうって」
壮大「深冬がお前に話したのか。なんで俺に先に話さないんだろうな。いつもそうだ。俺にも家族に対する気持ちはある。でも誰も俺の気持ちを聞かない。俺はみんなの話を聞いて、頑張って、それでも受け入れてもらえない。子どもの頃からそうだよ。お前は100点とらなきゃ価値がないって。もう一度頑張って100点を取ろうとしたけど、結局すべてを失った。いつもそうだよ。俺の人生はなんなんだろうね。お前はいいよな、いつもみんなから必要とされてさ」
壮大は、ただただ誰かに必要とされたかった。自分の存在を認めて欲しかったのだ。だから副院長になってからは、経営の傾いた壇上記念病院を大きくすることに専念した。医者としての技術も磨いてきた。それでも経営方針の異なる義父の院長からは嫌われる。周りには自分を利用しようとする人間ばかり。必要とされているという実感が持てない。
そんな壮大に沖田は語りかける。
沖田「お前が羨ましかった。ガキの頃から努力家で何でもできて。医者になってからも、チャンスすらまわってこない俺とは違った。悔しかった。シアトルだってお前に追いやられたからじゃない。お前に追いつきたかったからだ。深冬のことだって、病院の娘である彼女との将来を考えたら自信がなかった。俺は深冬から逃げていただけなんだ。壮大はすごい。病院をあんなに大きくして、家族からも大切に思われて。俺からしたら120点だよ。自分の価値に気付けていないのは、自分が認めていないだけだろ。深冬はお前を待っている。オペは三日後だ。彼女の命を救うには、必ずお前の力が必要なんだよ」
壮大「勝手なこと言うなよ」
沖田「勝手なのはそっちだろ。お前に俺の気持ちなんてわからないっていわれたからよく考えてみたけど、わかんねえわ。でもお前も俺の気持ち、わかんねえだろ。人の気持ちなんてわかんねえよ。でもだからこそ、理解しようって向き合うことが大事なんじゃねえの」
筆者は、以前から壮大は立派に頑張っていると思っていた。手法に問題はある。それが全てなのかもしれない。それにしたって院長の壇上虎之助(柄本明)は、あまりに壮大の功績を認めていなさすぎる。深冬もそうだ。壮大のことを思って、沖田にオペを頼んだのだろう。でも、どうしてそのことを壮大に話さなかったのだろうか。返す刀で、沖田と壮大にも同じことを思った。なぜ、深冬の気持ちを確認せずに、どちらが深冬を執刀するか争ったのだろう。そもそも、腫瘍の告知すら二人は直前になるまで深冬に隠し続けていた。お互いがお互いを思うあまりに、本当のことを言わないが故にすれ違う。それは、相手の強さを信じてないということなんじゃないだろうか。
二回目の手術の日、病室の扉を叩いて入ってきたのは沖田だった。深冬は残念そうな表情を浮かべる。結局、壮大は来てくれなかった。
それでも沖田は壮大を信じていた。手術室に入る直前まで、壮大を待ち続ける沖田。そして壮大はやってきた。沖田は小さくガッツポーズを浮かべ、壮大をみる。「俺の気持ちをみせてやる」。そう言い放つ壮大を、沖田は抱きしめ、壮大も沖田の背中に手をまわした。
追放された壮大が手術室に入ってくる様子をモニターからみていた病院関係者は騒然とする。院長は一言「彼は脳外科医としての腕だけは確かだ」と漏らす。ここにきてもなお、“だけは”と語る院長を筆者は好きになれないと改めて思った。
一流の腕を持つ幼馴染のタッグは、最強だった。困難を極めながらも、壮大は無事に腫瘍を摘出する。「取れたよ」。麻酔で眠る深冬に向けて、壮大は優しくつぶやく。最終話の中でももっとも感動的なシーンだった。表情はこわばり、不安げな表情を浮かべ、声も硬かった壮大が、ようやく呪縛から解放されたように感じられた。
ただどう解釈すべきかいまだにわからないシーンがある。それは手術を終えた壮大に、沖田が声をかけるシーンだ。「俺ひとりじゃ厳しかった、ありがとう」。その後に沖田はこういう。「やっぱりお前、最高だよ。外科医として」。わざわざ「外科医として」という言葉を加えたのはどういう意味なのだろう。沖田は、壮大に深冬を奪われた。「自信がなかったから、深冬から逃げた」と語っていた沖田の言葉は、優しいウソだったのだろうか。頬が緩んでいた壮大も、「外科医として」といわれたとき、少しさみしそうな表情を浮かべていた。このシーンは何を意味していたのだろうか。