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元通りには戻れないし、人生は続いてゆく/『カルテット』最終話レビュー

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『カルテット』公式HPより

 ついに最終話を迎えたTBS火曜ドラマ『カルテット』。今日で終わりかと思うと寂しくて、筆者は視聴前から“カルロス”状態でした。

 軽井沢の別荘で共同生活を送りながらカルテット(四重奏)を組むことになった真紀(松たか子)、すずめ(満島ひかり)、愉高(高橋一生)、司(松田龍平)は全員「夢が叶わなかった」30代。彼らのグループ名は「カルテットドーナツホール」で、由来は「音楽とはドーナツの穴のようなもの。何かが欠けている者たちが奏でるのが音楽である」ことからです。嘘つきだし社会人失格だけど優しくもある4人は、各々の嘘が判明するごとに絆を深めていきます。

 演奏活動は順調とはいかず、別荘(司の祖父所有)は売却話が持ち上がり、また全員片思い(愉高→すずめ→司→真紀)の恋愛事情はいつまでたってもなあなあ。それでもお互いのことが大好きになった4人、ライブレストラン「ノクターン」にて定期演奏を行いながら、和気あいあいと冬を過ごしていました。

 そんなユートピアハウスに刑事が訪ねてきたことで、最後の大嘘が判明。第七話で夫と離婚し、巻真紀から早乙女真紀になった真紀は、14年前から他人の戸籍で生活してきた偽・早乙女真紀だったのです。真紀の本名は山本彰子。10歳の時に自転車事故で母を亡くし、母の元再婚相手・義父に引き取られ暴力を受けていましたが、ヴァイオリン教室に通い大学に進学し経済的には不自由しませんでした。自転車事故の加害者家族から巨額の賠償金が支払われ続けていたからです。事故を起こした当時12歳の少年だった加害者の家族に賠償金を請求し続けていたのは義父で、彰子が早乙女真紀の戸籍を購入して行方不明になると同時期に心不全で他界。刑事は、偽名云々のみならず真紀が義父の死に関与しているのではないかと疑っています。第九話、過去を懺悔する真紀を他の3人は受け止め、真紀は最も自分を慕っていたすずめに自分のヴァイオリンを託して、警察の車に乗り込みました。

 真紀がいなくなって、カルテットはどうなったのか。次回予告も公式HPのあらすじもさらっとした感じで皆目見当がつかず、固唾を飲みながら最終話の視聴に挑みました。

【1話】大量の謎と伏線を散りばめた大人ドラマのはじまり
【2話】松田龍平のストーカー告白、ずるい濡れ場!「捨てられた女舐めんな」「今日だけのことだよ」
【3話】家族を捨ててもいいし、会いたくないなら逃げていい。
【4話】満を持して高橋一生回!夫婦とは、結婚とは、離婚とは…「男って他人の言うことは信じるのに、妻の言うことは信じない」
【5話】面倒な母からも妻からも逃げた「夫」がついに登場
【6話】夫婦が結婚生活を続けられなくなった理由を、これ以上ない説得力で伝えている
【7話】すれ違いを自覚した夫婦が、相手の幸せを願ったら
【8話】両思いは現実、片思いは夢のよう。切なくて苦しい満島ひかりと高橋一生に萌えてしまう
【9話】人生をやり直したのは「普通」に生きたかったから、もうやり直したくないのは今が幸せだから

捜索と再会

 真紀がいなくなってからも、3人は別荘で暮らしていました。二度めの冬を迎えた軽井沢。愉高と司は、「司くん」「愉高さん」と呼び合う仲に(笑)、すずめはマンション管理士の資格取得に向けて勉強中で前ほど寝なくなり、愉高は週7でバイト中。愉高のバイト先でカルテットが定期演奏していた「ノクターン」は(おそらく真紀の事件の影響で)「割烹ダイニング のくた庵」に変わりました。かたや司は無職。司の回想によって、真紀が警察に行った後の1年間の出来事が明かされていきます。

 真紀は住民票や免許証を不正に取得した罪で起訴され、メディアに「美人バイオリニストはなりすまし」「義父は不審死」などと取り上げまくられ超有名人になってしまいました。彼女が在籍していたカルテットドーナツホールのこと、司の家族(世界的に有名な音楽一家・別府ファミリー)のこと、すずめの過去(嘘つき魔法少女)まで記事で取り上げられ、それゆえ司は会社を退職するに至ったようです。ただ、愉高の過去(元Vシネ俳優で自転車日本一周を遂げた少年でもあったはずですが……?)は記事にならず。一方、良いこともありました。いわくつき物件と化した別荘は買い手がつかず宙ぶらりんのままとなり、3人は今も別府家の別荘で真紀を待ち続けることが出来ているのです。

 しかし、義父の不審死関与の疑惑を持たれたまま執行猶予がつき釈放された真紀は別荘に帰還せず、3人に連絡もせぬまま行方をくらましてしまいました。真紀の拘留中や釈放後、3人には真紀と連絡を取る手段がなかったのでしょうか? メールとかLINEしても真紀は返信しないのでしょうか? 真紀が無理でも弁護士を介して、連絡をすることは可能だったはず。さらに裁判で減刑を訴えるとか、身元引受人を名乗り出るとか、無理なんですかね。少なくとも裁判の傍聴は可能だったと思われますが……彼らは「そっと見守って」いたということなのでしょうか。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー