当の真紀は、古びた大規模団地の一室に居を構え、お世話になって弁護士以外とは連絡を取っていない様子で、新しい日常生活をスタートさせていました。カルテットメンバーの待つ軽井沢の別荘に戻る気も、音楽を続ける気もないようです。弁護士は「執行猶予がついたんだから音楽活動をやったっていい」と言うのですが……。
真紀「もう私がヴァイオリンを弾いても前みたいに聞いてもらえないと思うんです。週刊誌で見た犯人が弾くモーツァルト。疑惑の人が弾くベートーヴェン。それじゃ楽しんでもらえないですよね。私が弾く音楽はこれから先全部灰色になると思うんです。もうあの中には戻っちゃいけないな」
真紀の部屋の壁には、カルテットドーナツホールの広告が、画鋲ではなくテープで貼ってありました。この先、真紀が躊躇なく壁に画鋲を刺せる日は来るのか。
そんなある日、愉高がバイト中の「のくた庵」ですずめと司が食事をしていると、ライターを名乗る男が接近。真紀が義父を薬物混入で殺害したという噂を持ち出す男を相手にしない3人でしたが、週刊誌の記事(執行猶予のついた真紀が男性とコロッケデートしている写真入り)を見せられ「みなさん利用されてただけなんじゃないですか」と言われるとさすがに気が滅入ります(真紀は弁護士と歩いているだけなんですけどね)。中でも露骨にショックを受けた司はカルテットの解散を提案。けれど真紀からヴァイオリンを預かっているすずめは、一緒に待ってるねと約束したことを挙げ、解散は真紀にヴァイオリンを返してからにしようと言及。画して3人は、真紀の本格的な捜索を開始しました。
週刊誌の写真の風景とグーグルマップ、ストリートビューのおかげで大体の居場所はあっという間に判明します。馬鹿でかい団地だったため、3人は演奏をおこなって真紀をおびき寄せ、見事、真紀は現れます。もう再会はしないのかと、するにしてももっと焦らすのではないかと思っていたため、意外な早さでのカルテット再結集に少し驚きました。
よく見ると、真紀の髪には白いものが混ざっています。すずめも真紀の手や髪が以前とは違っていることに気づき、悲しげな表情を浮かべ「真紀さん連れて帰る」と宣言。執行猶予中に勝手に転居していいのか若干疑問ですが、すずめ、さらには愉高の抱擁を受けて(司は混ざっていけない、そういう人です)真紀は穏やかな笑みを浮かべます。高橋一生のバックハグ、羨ま~です。女2人(真紀、すずめ)の絆の強さを、男2人(愉高、司)が見守っているのもいいですね。
真紀が復帰し、ようやく4人揃ったカルテットは別荘に戻り、まるで何事もなかったかのような“いつもどおり”の食卓を囲みます。そして久しぶりの4人での練習。でも、すずめも愉高も、もう無職ではありません。来週から板前修業をはじめる愉高は「夢が終わるタイミング、音楽を趣味にするタイミングが向こうから来た」。不動産の新たな資格取得に向けて勉強中のすずめは「休みの日にみんなで集まって、道で演奏するのもいいんじゃないですか。誰が聞いてても聞いてなくても、私たちが楽しければ」。カルテットとしての活動の在り方は、変化を余儀なくされています。
ところが真紀だけは違いました。軽井沢にある、700人以上を収容する大ホールでのコンサート開催を提案し、偽早乙女真紀、疑惑の美人バイオリニストとして有名人になった真紀は、これぐらいの規模ならば満席にできると断言。さらし者、好奇の目……、それすら上等じゃないかと覚悟を決めた真紀に、元嘘つき魔法少女のすずめ、別府ファミリーのその他1名の司、一応Vシネに出ていた愉高、とワケアリ人間の集まりである彼らも賛同し、音楽を聴きに来たわけじゃない客でも1人か2人の届く人に届けばいい、とコンサート『MYSTERIOUS STRINGSNIGHT』開催を決定します。チケットは3,500円。
目論みどおり、チケットは完売。「のくた庵」にはカルテット宛てに手紙が届きます。差出人は匿名の元奏者。自身は才能のなさに気づいて音楽を断言したのだが、去年カルテットの演奏を聴いたとのことで、手紙では「みなさんには奏者として才能がない」「世の中に優れた音楽が生まれる過程で出来た余計なもの」「煙突から煙のようなもの」「価値もない、意味もない、必要ない、記憶にも残らない」とディスりまくっています。その一方で「煙の分際で、続けることに一体何の意味があるんだろう」という疑問がずっと頭を離れず、「教えてください。価値はあると思いますか? 意味はあると思いますか?」「なぜやめないんですか?」「なぜ」と訴えてもいます。
きっと束の間の静かな日々
コンサート当日、ホール周辺にはマスコミが集結し、観客も詰め掛けました。本番前の楽屋では、真紀とすずめがすご~~~く気になる会話を。
すずめ「真紀さん、一曲目ってわざとこの曲にしたんですか?」
真紀「ん? 好きな曲だからだよ」
すずめ「真紀さんのこと疑ってきた人は、別の意味に取りそう」
真紀「そうかな」
すずめ「何でこの曲にしたの?」
真紀「…………(口紅を差しながら)こぼれたのかな。…………内緒ね」
すずめ「…………うん(笑って)」
真紀が選んだ一曲目はシューベルトの『死と乙女』。「死」を拒否する乙女に対して死神が「お前を苦しめるために来たのではなく、安息を与えに来た」のだと語り掛ける曲です。真紀が選んだ『死と乙女』、こぼれてしまった意味とは……。それをわざわざ明かすほど、このドラマは野暮ではありませんが、だからこそ視聴者は自由に解釈することが出来るのです。
この一曲めを演奏中、早くも舞台に空き缶が投げ入れられ、演奏が終わったら次々と客が出て行きました。それくらいのことは想定内。4人は構わず次の曲に移ります。演奏中に中座する客がいる一方、立ち上がって手拍子を取る客も少なくありません。こうしてコンサートは終演。キャップを目深にかぶった女性客が意味深に何度も映されましたが、おそらくこの女性こそが「のくた庵」に手紙を送ってきた主だったのでしょう。1人か2人の届く人に届けばいい……この女性の「なぜ」に答える演奏をカルテットが出来ていたのなら、コンサートはきっと成功したと言えるのではないでしょうか。
放送時間は残り10分、また「まさか」が起こるのでは、とミゾミゾしながら画面を食い入るように見つめていましたが、別荘にはコンサートの舞台で撮った4人の写真が飾られるようになり、食事では“唐揚げにレモンかけるかけない論争”に次ぐ“パセリ問題”が勃発するなど相変わらず和やかな食卓風景。司の元同僚から熱海での演奏依頼も入ったようです。
そして熱海へ。4人は第一話で湖のほとりにて集合写真を撮影した時と同じ衣装を身にまとい(カルテットドーナツホールのチラシなどに使われている写真)、別荘を感慨深げに見つめ、ワゴンに乗り込みます。別荘の入り口には「FOR SALE」と赤で書かれた看板が。いわくつきだけれど、売り出し中であることには変わりなく、であれば4人がこの先ずっと別荘に住み続けることはできません。元通りに見えるけれど、元通りではない。そもそも「元通り」に戻ることなどどこの誰もできません。不可逆な時間を生きているのですものね。