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手もつないだことのない夫婦に見る、「男性の欲」ばかりが許容される社会

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 いまは多様性が認められる(べき)時代ですから、夫婦のあり方もいろいろ。ご存知のとおり性別にとらわれない結婚は日本ではまだまだ道のりが長そうで残念ですが、昨年は契約結婚のドラマが大ヒットしました。「仕事としての結婚、ありかも!」と思った男女も少なからずいそうです。事実婚、夫婦別姓婚……もっともっと自由になればいいですよね。

 セックスという側面においても、レスが問題となる夫婦もいれば、そうならない夫婦もいます。独身なのにこんなことをいうのもナンですが、もし私が結婚するとしたら「レスでも幸せを感じることはあるだろうけど、性的満足感をパートナーと共有できない期間が長く続くのは、関係性の維持においてとても困難」となるでしょう。この考えが誰かから否定されたらとてもイヤだらこそ、「私たちはどちらも、とても淡白なので」とレスを選ぶカップルも「1カ月でもレスなんて夫婦存続の危機!」と夜ごと奮闘するカップルも、どちらも尊重します。いい意味での「うちはうち、よそはよそ」が広まれば、多くの人がラクになるでしょう。

 けれど、まったく肉体的な接触がない夫婦……セクシャルコンタクトだけでなく、スキンシップすらない夫婦がいるとは、正直驚きました。『スキンシップゼロ夫婦』(ワニブックス)は、著者・まゆさんによる“シャイすぎる夫婦の実録”エッセイ漫画”です。

※以下、ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。

 夫=雇用主、妻=従業員という結婚の形態がウケるくらいだから、こういう夫婦のスタイルもアリかもしれない……という思いから手に取ったのですが、読後の想いはまったく違ったものとなりました。というのも、まゆさんがこの状況に納得していないように見えるからです。何度も自分に言い聞かせてはいるものの、このスタイルが夫にはフィットしていても、まゆさん自身にはそうなっていないとしか見えないのです。

男の欲は尊重される

 これで妻側も「スキンシップまったくしなくていい」というのであれば、それはそれで尊重されるべきです。が、まゆさんにも“欲”があることは明らかです。性欲だけでなく性交欲もあり、生殖欲もあります。そうした性的な要素をもつ欲だけでなく、ただ夫とふれ合いたい、肌のぬくもりを確かめ合いたいという、“親密欲”とでもいうべきものも、まゆさんのなかには確実にあるのですが、それらは行き場を失って迷子になっています。

 私は日ごろから、社会は「男の欲」というのもに対してなんと寛大なのだろうと感じています。特に性欲に関しては、オカズでもアダルトグッズでも性風俗店でも射精をサポートする環境は過剰なほど整っています。オカズに関しては、ネットのない時代からエロ本がコンビニに並んでいましたし、エロ本の自動販売機なんてものもありました。

 男性の性欲はメディアでも比較的おおっぴらに語られます。また、性暴力といった「性欲を抑えきれなかった」がために女性を傷つけたとしても、「男性には性欲があるのだから仕方ない」と思う人たちは、いまだ少なくありません。それどころか、「ちょっと元気すぎただけ」と擁護されることもあります。性欲があるのは誰も疑わない大前提、それが他者を傷つける形で発露してしまった場合ですら(積極的な許容じゃないにしても)許容される……そんなふうに見えるのです。

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桃子

オトナのオモチャ約200種を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。

@_momoco_

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