しかし、同作だけでは何だか事実関係もよくわからないし、母乳の代替品(=粉ミルク)の販売において何が問題になるのか本来はどうすべきなのかということが整理して描かれておらず(かろうじてパンフレットを読み込むと分かるけど)、国際的に有名な問題を一方的に、かつ中途半端に扱っているあたりも理由なんじゃないでしょうかねえ……。
パキスタンをはじめとする発展途上国周辺では、日本で勃発している母乳神話などは無縁の世界でしょうし、監督にとっても些末なことであり知るよしもないのでしょうが、母乳推し界隈では「ほーらやっぱり粉ミルクよくない!」と煽る材料にされまくるような予感でいっぱいです。
主人公はせっかく先進国のメディアや人権団体と接触しているのだから、そこでもう少し語らせてくれれば多少なりとも意義のある作品になったのでは。監督は粉ミルクそのものの良し悪しにはご興味ないのかもしれませんが、有名なネスレ・ボイコットの背景を描くのなら、パンフレットだけでなく作品内でももう少し丁寧にご説明いただきたいものです。
唯一楽しめたのは、パキスタン文化ならではの色彩の美しさ。きらびやかな衣服やインテリア、それに負けない美しさを放つ、主人公の妻。異国情緒を味わいたい人には、アリかもしれません。粉ミルク論争に興味を持つ人には、完全に肩透かしとなるでしょう。