【前回までのあらすじ】
4軒目にしてようやく子宮内膜症治療のかかりつけ病院を見つけた夢子。卵巣にチョコレート嚢胞はなく「子宮内膜症疑い」との所見だったの。ピルを服用しつつ、経過を観察することになったところよ。
* * *
子宮内膜症疑いと診断された夢子は、経過観察のため3カ月後に再診の予約を取って、次回までのぶんの“1相性(←重要)低用量ピル”とともに帰路についたわ。ビニール袋に入ったピルの束の厚みを手に感じたとき、夢子は「ようやく処方してもらえた!」という感慨で胸がいっぱいだったわ。
けれどもここまでの道のりのせいで、夢子はとても、とても精神的に疲れていたの。
「日本だって国連加盟国でしょお~? 先進国ならピルくらい標準にしてよね。病気の治療のためのピルを処方してほしいだけなのに、どうして悪いことをしてるような気持ちにさせられなきゃいけないのよぉ~?」
世界中では何億人という女性が自分の健康を守るために低用量ピルを毎日利用しているし、子宮内膜症といえばピルを処方するのが先進国の標準だわ。すでに30年もの昔から存在していて、特別でもなんでもない、世界基準でいえばホント「たかがピル」って程度のお薬なのに。
別の薬を勧めてくる医師に真っ向から対立して、病気を抱えつつも「私はピルを処方してもらいたいんです」と主張しつづけられるのは、自分がまだ若くて痛みに耐える体力と気力があるからだと夢子はわかっていたわ。そして医師と意見が合わなかったらさっさと別の病院に行けるのも、いまの自分に収入があるからだということも。
激しい痛みからは少しずつ解放されたけど
いろんな条件がそろっているいまだから自分はピルを処方してもらえたけど、これがひとつでも欠けていたら「たかがピル」すら処方してもらえなかっただろう、という事実は夢子を怯えさせたわ。ものすごーく薄い氷の上を歩いているような感覚よ。
さらにもうひとつ夢子を精神的に疲れさせた原因があったわ。
「経過観察が必要ってことはいまはガンじゃなくても、将来的にはガンになるのかもしれないの?」
これはいつまでも拭いきれない不安だったわ。かかりつけにしようと決めた病院では否定されたけど、いろんな病院で卵巣が腫れているだのチョコレート嚢胞だのいわれたせいで、情緒不安定になっていたのね。
ピルを胸にギュッとかかえた帰り道、まだまだいろんなことが不安で、夢子の目には周りの風景も入ってこなかったわ。
ガン化の不安は抱えたままだったものの、ピルを使いだしてから子宮内膜症の症状が徐々に落ち着いていったことは喜ばしかったわ。
たとえば貧血の改善ね。夢子にとって10代のころから立ちくらみは日常の一部だったし、それまでは健康診断で「貧血」と出るのが定番だったの。いつもそう出るから麻痺してしまって夢子はまったく気にしていなかったんだけど、貧血って心臓にすごく負担がかかるからよくないのよ。