二年前「忘れないでね」→「ママもう忘れたから」
柏崎オートでは満を持して結衣、陽一、広の3人暮らしがスタート。広は施設のナウ先輩(望月歩)に「2年前(麻子ママが)俺を施設に預けたのは何か事情があったんです。仕方なかったんです。俺は捨てられたわけじゃありません! ママはそういう人じゃないから」ときっぱり言い残して、引っ越してきました。麻子ママへの信頼は相当強く、結衣を母としてこれから暮らしていくことへの不安も実は大きいのではないでしょうか。そんな不安を隠して、広は柏崎オートで明るく振る舞い、「僕の部屋? 机だ!」と大げさに喜んで、スマホで写真を撮ります。「お母さん! お父さん!」と呼び、結衣、陽一との家族写真も撮ります。撮ってどーすんのかといいますと、大好きな麻子ママに送るんです。結衣の手作りハンバーグの写真には『ママの嫌いなデミグラスソースだぞー』とメッセージまでつけて。初日から広くん、ざ ん こ く。
しかし、広だって、結衣を「知らないおばさん」と認識しているかもしれないけれど、敵視しているわけではないはずです。その日の夜、結衣が「実はパパとママは離婚しています」とカミングアウトし嘘をついたことを広に詫びると、広も“麻子ママ”に写真を送っていたことを結衣と陽一に打ち明け、謝罪するのでした。ほんの少し3人の距離が縮まった……ように見えました。そこへ嵐を巻き起こしたのは、突然の、麻子の来訪。
麻子が柏崎オートにやって来たとき、陽一と広は外出しており、結衣とたまたま遊びに来ていた莉沙子(板谷由夏)が迎えました。麻子は例の手紙の“麻子ママ”とは別人のような能面表情で淡々と、9年前に広と暮らしはじめた経緯を語ります。
麻子「あの日隣の部屋から声が聞こえました。空き家のはずだったのに、かすかに聞こえてきたんです。ぐったりと横たわった小さな身体が見えました。虐待されてると思いました。助けなきゃと思ったんです」
莉沙子「どうして警察に届けなかったんですか?」
麻子「男の子が震えていたからです。汚れた身体と空腹と恐怖と悲しみを取り除いてあげなきゃと。私は置き去りにされた子を救ったつもりでいました。そう思い続けていました。まさか連れ去られた子どもだったなんて……。何も知らなかったとはいえ、申し訳ありません」
警察に行って話してもいいし、世間に公表して裁判で訴えられてもかまわない、でもあのとき私が助けなければあの子は死んでいたのだと、麻子は静かに主張します。それはそうだけれど、広をネグレクトされた子どもだと誤解したのは麻子の勝手であり、当時のテレビニュースや新聞で「誘拐された子ども」として広の情報は広く出回っていたはずです。けれど結衣は、「助けていただいてありがとうございました」と礼を述べ、なじったり責めたりはしません。麻子が見つけていなかったら、結衣は広と二度と会えなかったのです。死なれるよりはマシ、少なくとも今、広は自分の手元に戻ってきた……だから感謝を言う以外にないのかもしれません。
行方をくらましていた麻子が、このタイミングでわざわざ訪ねてきたのはなぜなのか。それは、広と決別するためでした。「2年前なぜ広を手放したのか?」という結衣の問いかけに「女ひとりで子どもを育てるのは大変なので施設に預けました」と明らかに嘘をつき、帰宅した広には「もう忘れました、コウと暮らした日々のことなんて。手紙も2年前に書いたものですから忘れてください。今日はお詫びと、もう二度と会わないことを伝えに来たんです。元気でね」と冷たく言い放ち、去ろうとする麻子。あからさまに、まだ明かせない事情を抱えていますね。