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不思議と応援してしまう?「35歳ひきこもりニート」の魅力

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『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』竹書房

『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』竹書房

 現在tvk(テレビ神奈川)で再放送されている『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』(2012年)を偶然見て、俄然、興味を持ったのは、主人公の芝二郎(佐藤二朗)さんのライフスタイルに憧れたからです。

 『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』は、テレビシリーズ『マメシバ』の3作目で、前作・前々作を見たことがない私は二郎さんのバックグラウンドを全く知りませんでした。『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』を見る限り、二郎さんは1Kのアパートに暮らし、室内でマメシバを飼っていて、ペットショップに勤務しているようでした。いつも外が明るい時間帯に、マメシバの一郎ちゃんを散歩させているところを見ると、拘束時間があまり長くない勤務形態だと思われました。

 1Kのアパートで、大家さんの了承を得てペットを飼えているとは、なんと羨ましい……! 私も1Kのアパート暮らしですが、1Kでペット可の物件なんて、ほとんどありません。このドラマを見て、自分と犬を一匹養えるだけの収入を、短い勤務時間で、どうやって得ているのだろう? という点を知り、参考にすれば私も将来ペットを飼えるかもしれない! と野望を抱いたのでした。

 そしてなによりも興味をもったのは、二郎さんが、あまり人とのコミュニケーションを得意としない様子だったからです。常に挙動不審で、人と話すときも絶対目を合わせず、いつも無表情。口は非常に達者で、マシンガンの勢いで喋るのですが、抑揚が一切なく、淡々として声も小さいので、あまりおしゃべりという印象ではありません。不思議な味わいのあるキャラクターです。

二郎さんがどういう人なのか気になり、『マメシバ』テレビシリーズの1作目である『幼獣マメシバ』(2009年)を全話拝見しました。佐藤二朗さんが、『レインマン』のレイモンドを演じたダスティン・ホフマンのような名演技なので、最初私は役柄の二郎さんもレイモンドのように自閉症なのかも? と思いましたが、二郎さんの場合、そのような設定ではなく、ただ単に生きづらさを抱えた人、というキャラクターです。

 二郎さんは、『幼獣マメシバ』シリーズの段階では、35歳のひきこもりのニートでした。ひきこもって自宅から半径3km以内で生活していたのには理由があり、彼は県道、線路、川、国道、といったものが怖くて越えられないからでした(これは別に何らかの疾患があるから越えられないのではなく、単に怖いだけ、という理由)。ブログを書く以外には趣味もなく、家族や親戚以外とは、挨拶するのすら困難、という状態。『マメシバ一郎 フーテンの芝二郎』では、二郎さんはペットショップに勤務しているわけですから、『幼獣マメシバ』の時代からはかなり成長していることになります。

 テレビシリーズ『幼獣マメシバ』は、そんな二郎さんが、失踪した母親の残したヒントを元に、徐々に行動範囲を広げ、親戚以外の人とも挨拶や会話ができるようになる軌跡を、淡々と描いています。

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大和彩

米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。

『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』