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「清く正しく美しい」タカラヅカの舞台にエロスはあるのか。異色の男役トップスター紅ゆずるが体現するもの

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 紅が主演している「スカーレットピンパーネル」は、タカラヅカの代名詞ともいえる「ベルサイユのばら」と同背景の作品。フランス革命後、独裁化を進めていく革命政府が無実の貴族まで弾圧するなかで、紅が演じるイギリス人貴族パーシーは友人たちとスカーレットピンパーネルを名乗り、身元を隠して貴族たちをひそかに救い出していました。新婚の妻マルグリットはかつてフランス革命の女性闘士として活躍していましたが、変貌してしまった革命の理念に失望。距離を置いていたはずが当時の恋人で革命政府の公安委員ショーヴランと再会し、スカーレットピンパーネルの正体を探るよう脅されます。

 イギリスの作家バロネス・オルツィの同名小説を原作に、1997年にブロードウェイでミュージカル化。タカラヅカでは2008年に星組で初演され、10年の月組で再演されています。ブロードウェイではスカーレットピンパーネルの活躍に比重が大きく描かれているのですが、タカラヅカではお互いに秘密を抱えてしまった夫婦のすれ違いを軸に展開します。

 紅の外見は、一般的にはいま放送されている宝くじのテレビCMで目にすることが多いかもしれません。いかにもタカラヅカ男役! な涼しい顔立ちなのですが、思い切りのよすぎるコメディ演技が得意な個性派で、本人もかなりのお笑い系。

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タカラヅカではなくタカラクジ

 手足は驚くほど長いのに、正直ダンスはうまいとはいえず、歌はミュージカルとしての及第点、といったところ。にもかかわらず、ファンがタカラヅカで見たいと思っている「美しいもの」のすべてを見せてくれる演者なのです。

 パーシーは世間を欺くために、ふざけた言動をとったりトップスターとは思えないような変装をしたりする場面も多く、コメディに寄りすぎてしまえば到底かっこよく見えないはずなのですが、舞台から去る一瞬だけ見せる凛々しい表情ですべてを取り繕ってしまえるのは、紅の芝居心のなせる技です。

 婚約から結婚までの場面では、幸せな恋人同士そのものの笑顔のチャーミングさ。結婚式の最中に知ってしまったマルグリットの疑惑を前に、笑ってみせながらもその中に哀しみとつらさ、困惑をにじませます。さらに、友人たちとの楽しい談笑を装いながらも彼らの目を盗んで、距離が生まれてしまった妻へ向ける視線の切なさ……、どこから見てもきれいで、目が離せません。

特に目を奪われたのが、マルグリットを演じる綺咲愛里(きさき・あいり)との、頬への接触でした。あなたと結婚できて幸せ、とほほ笑む新妻の心を疑いながら「僕もだ」と返したときの、彼女の手を自分の頬へ当てる仕草。そして終盤、誤解が解けて愛を再確認し「もう一度結婚式だ!」と妻の頬を軽く指でつつく動作に、客席の興奮は最高潮に達しました。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121