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「清く正しく美しい」タカラヅカの舞台にエロスはあるのか。異色の男役トップスター紅ゆずるが体現するもの

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 タカラヅカでは、公演期間中に一度だけ、入団7年目以下の若手のみで同じ作品を演じる「新人公演」が行われます。新人公演でトップスターの役を演じることは出世への登竜門なのですが、08年の「スカーレットピンパーネル」初演の新人公演で主演したのが、紅でした。

 それまで紅は主要な役に恵まれたことはほとんどなく、新人公演の主演も最後のチャンスにして唯一の、大抜擢といえる配役でした。この新人公演は宝塚大劇場で観劇しましたが、登場場面の主題歌のソロでは声が震えていて、外見だけのコなんだなと思ったのに、演じているうちにどんどん主人公になっていって「タカラヅカのスター誕生」の瞬間に立ち会うことができた感動は、忘れることができません。

スターが生まれる瞬間

 殺陣では下半身がフラフラだったし、高い技術で観客を納得させたわけでは、決してなかった。もしかしたら「オーラ」と呼ばれるものなのかもしれませんが、それまで与えられたどんな小さな役でも、物語の本筋とは関係ないところまで細かく役作りにこだわっていたという紅の、お芝居を愛する気持ちと努力が結実した結果なのだろうと感じています。

 舞台は総合的なエンターテイメントで、表現方法は多種多様です。カリスマ性と高い実力を持ち合わせた圧倒的な俳優の一人芝居もあれば、個々は目立たずともたくさんのアンサンブルによる数の力で魅せる作品もあります(余談ですが、タカラヅカの特徴は未婚女性のみの劇団員での構成ですが、他興行とのもっと大きな差は、「1作品に出演する人数の数が異様に多いこと」です)。

 作品を完成させるための、最後にして最大のピースである観客の求めるものはなにか。緻密に練られた脚本や圧倒的センスの演出ですら、必ずしも正解ではありません。一般的な技術よりも、ときめかせてくれるかどうかーートップスター紅の笑顔、そしてそれを最高に彩ってくれる物語こそが、タカラヅカにとっての最高にセクシーな正義なのです。

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

@westzawa1121