
(C)河井克夫
しぇー子はまた家にやってきた。深夜にメールがあり、飲みに行って帰れなくなったので泊めて欲しいということだった。もはや、当然のような顔でやってくるので、これは一種の「彼女ヅラ」ではないかと思う。俺も当然のように、やってきた彼女にキスをし、体を求めるが、しぇー子は相変わらずそれを許そうとはしないのだった。
しぇー子は、やはり当然のような顔で俺の家のTシャツとスウェットを着て、当然のように俺の家のセミダブルベッドに横たわっている。俺も彼女の隣に横たわり、彼女に覆いかぶさると、その胸に手を伸ばした。
「だめ。」
「だからなんでだよ」
「俺のことが嫌い?」
「嫌いだったら来ないよ。」
「じゃあ、なんで」
「ねえ、『俺』っていうのなんで?」
急に言われ、俺は戸惑った。
「え?」
「『ぼく』とかじゃだめなの?」
なんだそれ、と思った。そして、そういえば俺は、いつから俺のことを俺と呼ぶようになったのだろうと一瞬考え、いやそんなことはどうでもいい、やはり俺はこの女に弄ばれている。と考え直し、しぇー子の顔を睨むと、しぇー子はいたずらっぽく微笑んでいる。
ついまた、しぇー子の手の内に入ってしまった俺は、その笑顔を睨みつけたまま言った。
「…ぼくのこと、嫌い?」
とたんにしぇー子は笑い出した。
「ぎゃははは、やだー、すごい女々しい~。」
女々しくさせてるのは誰だ、とまた俺は腹を立てたが、なぜかしぇー子のこういう返しに乗ってしまうことに喜びを感じる俺もいた。俺はなおも重ねた。
「あたしのこと、嫌い?」
しぇー子はなおも笑って、言った。
「ぎゃははは、それいいね。かわいい。」
「あたしのこと嫌い? ねえ! 答えて!」
言いながら俺はしぇー子の胸をまさぐる。しぇー子はまた腕でそれをガードしながら言った。
「やめてやめて。いま、生理前で、乳首張ってて痛いから。」
俺は、慌てて手を引っ込めた。
「あ、そうなの?」
「うん、眠いし。」
「眠いのはいつもだろ。でも、あれじゃないの? 生理前はむしろしたくなるもんじゃないの?」
いやらしいな俺、と思いながら、そう言って恐る恐るまた手を伸ばしてみた。
「えー、そういう話も聞くけど、あたしはどうかなー。」
しぇー子は俺の手を退けながら、またシーツに体を潜り込ませた。
俺は気を削がれ、伸ばした手を引っ込めると、自分のあごの下をぼりぼり掻いた。しぇー子は顔の半分をシーツに埋め、黙っていたが、しばらくすると
「ねえ、またお話ししてよ。笹王さんのエロ話、あたし好きだよ。」
と言った。
「俺より、俺の話のほうが好きってか。」
「あたしの、でしょ。」
「あたしより、あたしの話のほうが好きっていうの?!」
しぇー子が笑い転げた。
俺は「あたし」になって、乳首の話を始めた。
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