
『何がジェーンに起ったか?』(ワーナー・ホーム・ビデオ)
幼い頃、華やかなステージに立ちたいと夢見たことはありますか? テレビや映画を見てスターに憧れていた少女も、年を重ねていくうちに自分が平凡であることに気が付き、そういった夢はいつしか忘れ去ることがほとんどです。
それでも中には、幼少期から華やかなステージで活躍する人々もいます。しかし、容姿や才能に恵まれ、表舞台で花咲く子役やアイドルたちの命は往々にして短く、長期に渡って仕事を獲得し続けることは至難の技。どんなに才能豊かなスターでも人気にはピークがあり、その後訪れる下り坂の角度は、絶頂期の華々しさに比例するでしょう。ピークを味わった者は、下り坂も甘んじて受け入れなければならないのです。
過去に捕らわれ、現実逃避した女の末路
『何がジェーンに起ったか?』(1962年)は、下り坂を転がり落ちた女のサスペンス……いや、ホラー映画です。
姉・ブランチと妹・ジェーンの姉妹は、小さい頃からショービジネスの舞台に立ち、歌を披露するタレントでした。ジェーンは「ベイビー・ジェーン」という愛称で親しまれ、彼女そっくりのフィギアが発売されるほど一斉を風靡。かたや、まったく人気のなかったブランチは、一家の大黒柱となって「私が金を稼いでいるの!」と豪語するジェーンに振り回され、両親もジェーンのワガママを聞き入れ放題。稼ぎのないブランチの肩身は狭く、両親に責められ続けていました。母親が父親に影で助言するシーンでは、「もっとジェーンに気を配って!」なんて言い出す始末。先に言っておきますが、本映画には家族間の愛情などの温かいものは一切なく、彼らの家には憎悪と狂気しかありません。
さて、流れの早い芸能界。2人が成人する頃には映画ブームが到来し、ジェーンとブランチの立場は逆転します。ブランチは実力派女優として大活躍し、ショー上がりのジェーンは「大根女優」と比喩され、ブランチのおこぼれで仕事にありつくのがやっと、という状態でした。ちやほやされ続けてきたジェーンが、ブランチより格下と見られることは、さぞ悔しかったことでしょう。ジェーンは次第に酒浸りになり、精神のバランスを崩していきます。
そんなある日、姉妹の運命を変える自動車事故が起きたのです。この事故により、ブランチは下半身不随の車椅子生活となり、ジェーンは事故直後から失踪。3日後に発見されたのですが、事故の目立った傷痕もなく、メディアは一斉に「嫉妬したジェーンがブランチを轢き殺そうとした」と報じます。それ以降、姉妹揃って表舞台から姿を消しました。