よう、また会ったな。子宮だ。「子宮とちんぽをジャストミート計画」を立てた夢子はネットの婚活サイトに登録し、マコトという男と会う手筈を整えるところまでこぎつけた。
ところが日程が近づくにつれて夢子はどんどん憂鬱になるのだった。マコトと会ってお話したり飲み食いすると考えるだけで疲れる。会うまでの1週間、マコトはマメにメッセージをくれた。夢子は、それがうっとおしくてたまらない。
机に突っ伏して、どう返信したものか考えた。気が狂いそうなほど面倒くさい。これ以上やり取りをつづけたら、当日、約束をすっぽかしてしまいそうだ。悩んだ末ひねり出した文言は非情なものだった。
「会う当日まで、メッセージは送らないでください」
それにもマコトは律儀に返信をくれた。
「了解しました! 当日楽しみにしています!」
プロフィール写真と違う…
アポ当日、待合場所に現れたマコトを見て、夢子はくるりと踵を返しそうになった。サイトに掲載されていた、若々しく日焼けした写真はおそらく4、5年前のものであろうことをその瞬間、悟った。マコトは画像とは別人の、小太り男性だったのだ。
いちばん恐れていたパターンだ。別に彼の体型を批判する気はない。自分だって自慢できるようなルックスではない。手術の日が迫っているし、あれこれ選り好みしている場合ではないのだ。別に誰だってよい。男性アレルギーさえ発動しなければ……。
こういう場合、遠くから見て自分の好みでなければ、そっとその場を離れて「ごめんなさい、今日は行けなくなりました」とメッセージする方法もある。しかし場数を踏んでいない夢子は、のこのことマコトの前に出ていってしまった。
念のためマコトの姿をきちんと見てみたいという思いもあった。しちめんどうなメッセージのやり取りをして、ようやく会う約束を取り付けた相手だ。いままでの努力を無駄にしたくない。
なにより、今日はひさしぶりにメイクして髪を整えて部屋から出た。ひきこもりの夢子にしてみれば、部屋から出るのは大変なエネルギーを要する。外に出る苦痛と比べれば、好みじゃない男性と静かなホテルの部屋でセックスすることなんて訳はないはずだ。
だが正面からまじまじと見ても、マコトの姿に夢子の心はついて行かなかった。男性は25歳を過ぎると急激に男性ホルモンの影響を色濃く受けて、数年前とは別人のように変貌することがある。ぷよっとむくんで疲れた顔のマコトに、夢子は胃痛の気配が忍び寄るのを感じていた。
「アンジェリカさんですか? ……大丈夫そうですか?」
マコトは心配そうにそう聞いてきた。
大人の出会いの世界では、符丁めいた用語が飛び交う。「大丈夫」とはどういう意味だろう? 一瞬キョトンとした夢子だったが、「僕と一緒に時間を過ごしても大丈夫そうか?」という意味だろうと合点した。その時点で「あっ、大丈夫じゃないです、今回はなしで」というべきだった。
高身長女性のイメージ
いうべきだ……いや、いうべきなのか? どっちが正解なんだろう? 軽いパニックに陥りつつあった夢子にはわからなかった。わかるのは、「大丈夫じゃないです」なんていう勇気などないことだった。
(ひょっとしたらお話したらすごく楽しいかもしれないじゃん! ここさえ乗りきってしまえばあとは検証ができるんだから!)
自分にいい聞かせつつマコトが予約してくれた店に向かったが、まずいことに、到着したそこは個室居酒屋だった。靴を脱いで脚を掘りごたつのようなテーブルの下につっこむタイプの部屋だ。淫靡な雰囲気の和室には、ますます夢子の緊張を増幅させる作用しかなかった。
プロフィールによるとマコトは一橋大学大学院を卒業していた。さぞかし勤め先も立派なのだろう。そこから話題を膨らませばいいものを、学歴や職種、年収に一切興味がない夢子は、それに思い至らない。何をしゃべればいいのかさっぱりわからず、じっと押し黙っていた。
緊迫した雰囲気の中、マコトが口を開いた
「俺、Mで、前の彼女に乳首開発されたんですよ」
「……はぁ……」