
「いのちのはじまり」は順次公開中
子どもの成長に本当に必要なものとは? よりよい社会を創るためには? その答えは全て乳幼児期に! 安心して育児に取り組める公共政策の必要性を訴えるドキュメンタリー映画『いのちのはじまり 子育てが未来をつくる』が、現在公開されています。
予告編は幼児たちに〈胎内記憶〉を聞くシーンではじまるので、ついアレルギー反応が出そうになりましたが、本筋には関係なさそうなのでひとまず横に置いておくとして(胎内記憶のトンデモっぷりは過去記事をご参照!)、肝心の本編を観終わったあとは……〈ザ・正しい子育て〉を見せつけられてお腹いっぱいです。
ワンオペ育児真っ最中であり、保育園や親を頼りまくり雑ながらもなんとか育児をこなしていく実録育児マンガ『ママはテンパリスト』(東村アキコ)に日々癒される自分には、どっと疲れたとしかいいようのない映画でありました。Twitterでは「産後鬱になりそうな人は、この映画で救われるはず」みたいな意見がありましたが、いや~、逆じゃない?
素敵な子どもに育て上げる要素とは
公式HPでは「世界にはいろいろな育児の形がある」と謳っていますが、その〈いろいろ〉とは養子縁組や同性婚、専業主夫のことで、好意的に取り上げられるのはもれなく、全力投球で子どもと向き合い、愛情と手間ひまを注ぎ込む育児です。
・人格の土台が形成される乳幼児期(生後~就学前)の脳では、毎秒700~1000個もの神経細胞が活性化している
・毎日の遊びや親からの語りかけなどの刺激によって神経細胞が接続され脳が発達し、後の健康や精神的な幸福、学習能力が決まる。
さまざまな専門家がこのようなお説を語る合間に、各国で取材したという育児現場の映像が挿入されますが、子どもたちのかわいらしいシーンばかりがちょこちょこっと登場するそれはまるで、各専門家たちのお説を実践すると、こんなに素敵な子どもになるんですよというイメージ映像のよう。
観ていて唯一楽しかったのは、〈生態観察〉系のお話。赤ちゃんが食事中にスプーンをわざと落とすのはいたずらをしているわけではなく、〈落とすと音が鳴る〉〈大人はこういう反応をする〉と予測し、それを確かめているから、というお説と映像が登場します。日本でも赤ちゃんの行動を、脳科学や心理学などの幅広い見地から総合的に解明していこうという〈赤ちゃん学〉がありますが、単純に〈未知の生き物〉への理解が深まることは、ワクワクさせられます。映画的には子どもをより正しく理解すると、感情的にならずに接することができますよというアプローチなんでしょうけど。
セレブが語る“正しき”子育て
逆に「はいご立派ご立派」と白けた気分になるのは、市販のオモチャや育児グッズをディスっているとしか思えないような、親たちのご意見。なかでも世界一稼ぐスーパーモデルとして有名なジゼル・ブンチェンのドヤ顔はすごかった……! キャラクターものなどのオモチャは必要ない。そんなものがなくても、身の周りにある普通のものが立派な玩具になる。子どもはキャラクターもののカードを欲しがることもあるけれど、そんなときはネットで画像を拾ってプリントアウトして、手作りするの。最初は不満そうだったけど、今では夢中で遊んでる。
……そんなマイ育児をパワーみなぎる、信念に満ちあふれたセレブトークで繰り広げていました(ロバート秋山のクリエイターズ・ファイルでぜひ再現してほしい)。ヘアメイクされながら娘に授乳している写真を公開したり、子どもの食事もグルテンフリー食品にしたりすることが知られる、ジゼル様の意識高い育児はさすがです。
別家庭の紹介では「大人が常に目を配り安全を確認していれば、家の中は特別なものを用意しなくていい」という主張もありましたが、日本のワンオペなワーママには絶対無理無理無理~。仕事帰りに子どもを回収してスーパーに寄り猛ダッシュで食事の支度をする生活の中で、子どもが夢中になるテレビやキャラグッズ、安全ガードといった類がなければ、日々を乗り切れないんですけど。キッチンで料理をする親の横で、子どもが遊びの延長でお手伝い的なことをしているシーンでは、我が家の狭いキッチンで火のついたガス台をカチャカチャ触る自分の子どもを思い出し、思わずキーッと血圧が上昇。
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